東京都北区田端や荒川区西日暮里かいわいは暮らしやすい景勝の地として知られ、かつて作家や俳人が集った。住宅地に今も息づく歴史や文化に触れようと出かけた。
JR田端駅からほど近い「田端文士村記念館」。常設展示スペースに日本家屋の精巧な模型があった。庭の木に登る和服姿の人形がこの家に住む作家、芥川龍之介だ。その父を見上げる子どももいる。2階は原稿用紙や書物が散らばる書斎で、玄関には「忙中謝客」との張り紙が。資料から事実を丹念に拾い、芥川邸を再現した。
「東京美術学校(現・東京芸術大)がある上野に近いためまず美術家たちが集まり、芥川や室生犀星が転入したことで多くの文士が暮らすようになりました」と研究員木口直子さん。同館を出て住宅地に点在する文士の旧邸跡へ。芥川邸跡には記念館が建設予定で、フェンスで囲まれていた。
隣駅のJR西日暮里駅に移動し、道灌山通りを渡る。室町時代の武将太田道灌が出城を築いたと伝わり、江戸の名所として錦絵にも描かれた。今は絵のような風景は望めないが、開成中学・高校脇にあるひぐらし坂を上ると走り抜ける新幹線とスカイツリーが見えた。
西日暮里公園を抜けて日暮里方向に向かい、本行寺へ。月見寺とも呼ばれ、俳人小林一茶らが訪れ句を詠んだという。
「ほっと月がある 東京に来てゐる」。境内で種田山頭火の句碑を眺めていると、ラテンギターの音色が聞こえた。本堂でミュージシャンらがセッション中だった。寺では句会やコンサートなど文化的な催しを行っている。「お経も読むけど余興もやります」と赤い帽子が粋な住職加茂行昭さんは話す。
JR日暮里駅を越えて住宅地を進むと、ベーカリーカフェと書店が並ぶひぐらしガーデンがある。書店で新刊本を物色してウッドデッキから中庭を見ると、心地よい木陰でランチを楽しむ人でにぎわっていた。
【メモ】田端文士村記念館で配布される散策マップは町歩きに便利。