大雨時、水田に雨水をためて排水量を抑制し、河川流域の浸水範囲を減らす「田んぼダム」の面積が本県は全国3位という。堤防整備やダム建設などに比べ、各農家が水田に排水升を設置するだけで取り組める簡易さや1基3~4万円と安価なことが大きな利点で、その面積は5千ヘクタールを超える。一方で県内の水田面積全体に占める割合は約5%に過ぎず、取り組みは緒に就いたばかりだ。国がコメの生産性向上などを掲げる中、水田の貯水機能強化も図りたい。
田んぼダムは、利水ダムの事前放流や調整池設置などの流域治水の取り組みの一つ。高さ30センチ程度のあぜがある水田の排水口に排水升と流出量調整板を設置して雨水をため、水田から外に流れ出る水量を減らし、水路や河川の水位上昇を遅らせる。農家自身で水位を調節できるため、稲の生育への影響はないという。
農林水産省によると、2023年度の県内の実績面積は4834ヘクタール。全国で最も取り組んでいるのは北海道で4万6040ヘクタール、次いで新潟県の1万6429ヘクタール。県によると、24年度の本県は5062ヘクタールに拡大している。
県内で取り組みが広がる背景には15年の関東・東北豪雨や19年の台風19号被害の経験がある。小山市は関東・東北豪雨で思川流域に大規模な浸水被害が発生した。それを契機に取り組みが進み、関係者が先進地である新潟県内の視察などを重ねた。
治水効果は大きい。県農地整備課が今年3月にまとめた農村地域雨水流出抑制対策基本指針によると、宇都宮市など5市町にまたがる田川流域では、最重点対策区域内とされる現状の約1200ヘクタールの田んぼダムを約30年後までに約6150ヘクタールに増やすことで、流域の浸水面積は15%減、床上浸水面積に限れば約20%の減少が見込める。
一方、田んぼダムという名称から「河川から水田に水を引き込む」などの誤解は珍しくない。県は効果のシミュレーションの提示や農家向けの研修会を開くなどしているが、市町や関係機関と協力し啓発をより強めたい。
費用に関する独自の補助制度があるのは小山、宇都宮、栃木の3市にとどまり、この3市で県内の田んぼダム面積の8割超を占めている。普及を図るには、県や他市町が同様の取り組みを進めることが不可欠だろう。