下野新聞の夏の全国高校野球選手権栃木大会の名物連載「白球の詩」。ともに夢を追った仲間との日々、胸に秘めた覚悟、知られざる親子の葛藤…。連載が始まった1980年以降の紙面から、心を揺さぶる珠玉のストーリーの数々を紹介します(7月9日まで毎日配信予定)。記事一覧はこちら

【白球の詩】1980年(第62回大会)黒磯・針生幸一投手

 マウンドに立った黒磯の針生幸一投手は白球を両の手のひらでおし抱くようにしてこねた。ゆっくりと体のぬくもりを少年が小鳥をいつくしむように伝えた。

 白球との出合いは黒磯高入学後にちゅうちょなく野球部のトビラをたたいた時だった。部室には赤い糸だけが浮き出た土色のボールが転がっていた。「硬球だ」。

 東那須野中時代には軟式野球の遊撃手として難しいバウンドの球を処理、自信を持っていたがこの硬球には戸惑った。