中山間地を中心に、県内でも訪問介護事業所の経営悪化が懸念される。慢性的な人手不足に加え、昨年4月の改定で基本報酬が引き下げられたためだ。移動に時間やコストがかかる地域でもサービスを維持できるよう、国は報酬体系の見直しや事業所への支援を急ぐべきだ。中山間地を見捨ててはならない。

 訪問介護は研修を受けた有資格者のヘルパーが、高齢者宅を訪れて掃除や調理、買い物などの身の回りの世話をする。高齢者が住み慣れた地域で生活していくために、欠かせないサービスだ。

 厚生労働省の公表資料に基づく共同通信の集計によると、全国では2024年末時点で本県の塩谷町を含む107町村が、訪問介護事業所のない空白自治体だった。22年以降、増加傾向にある。

 県によると、塩谷町には25年4月1日までに2カ所の事業所ができたが、茂木町はゼロとなった。訪問介護は小規模でも始めやすい半面、撤退もしやすい。県内の訪問介護事業所は同日時点で392カ所あり、1年間で10カ所増えた。しかし事業所があっても、新たな利用を断らざるを得ないケースもある。

 最も深刻なのは人手不足だ。訪問介護は基本的にヘルパーが1人で対応する。未経験者にはハードルが高い。若い人材は賃金水準の高い他業界へ流れ、ヘルパーの世代交代が進まず高齢化が進む。

 加えて中山間地では移動時間も経費もかかり、赤字が膨らんでいる事業所も少なくない。利用者が集まる有料老人ホームなどを短時間で回れる都市部と、1日数軒しか回れない中山間地では、得られる報酬に差がある。

 ところが都市部も含めた訪問介護全体の利益率が「他のサービスより高い」として、基本報酬が一律に引き下げられた。最低賃金の引き上げなどもあり、人件費は上がっている。現場からは2年後の報酬改定まで経営を維持できるか、不安の声も上がる。

 国や県は物価高騰対策として実施しているガソリン代補助の拡大なども検討すべきだろう。場合によっては、前倒しで報酬体系を見直す必要があるのではないか。

 県は本年度、訪問介護事業所を対象に経営改善や人材定着のための補助金も創設した。従来の人材確保策と合わせ、ヘルパーや事業所への支援を続けてほしい。