パリの有名レストラン「ランブロワジー」の新たなシェフに、日本人の安発伸太郎さん(39)=宇都宮市出身=が就任することが決まりました。2016年10月8日の下野新聞に掲載された安発さんのコラムを紹介します。

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 18歳で単身フランスに渡り12年がたった。フランスが気に入り住み続けているというよりも、日本に帰ることを楽しみにあと一年あと一年と充実した修業をした結果、先には先に学ぶものがあり時間がたっていた。

 和食店を営む家庭で育ち、幼い頃から料理人という職業を意識する中でやがて、世界中の人に食べられているフランス料理の道を志すようになった。

 現在私はパリのエリゼ宮近くにあるレストランで創作を任されている。9割が外国からのお客さまであり、どのような嗜好(しこう)の人にも好まれ、なおかつ他では見たことのないような料理が求められる。

 レストランの外で過ごす時間は感性と美意識を磨くための時間にしているが、ヨーロッパは絶好の舞台だ。近隣の国やアフリカに毎月のように足を延ばすことができる地理的条件は、広くを知る機会を与えてくれる。料理のアイデアだけでなく、それぞれの地域のもてなし、美的感覚など得るものは多い。

 そして、パリ市内で過ごす普段の週末も刺激に満ちている。雑誌で見ていたようなぜいたくに触れることができるのが素晴らしい。有名なホテルでも、お茶を飲みに行くことで、美しい調度品を眺めて配色や仕上げのディテールを堪能することができる。3メートルはゆうに超える天井、クリスタルのシャンデリア、大理石の柱。細部までこだわった手作りの品が身近にたくさんあり、建築やインテリアやファッションなど、分野は違えど学ぶものは多い。

 フランスで学ぶことがまだまだたくさんあるように感じるのは、先人たちの職人技に触れることができるからだ。

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 1986年生まれ。18歳で単身渡仏し、数々のレストランで修業を重ね、現在はパリの三つ星レストラン「エピキュール」で副料理長を務める。2016年サンペレグリノ若手料理人世界大会フランス代表。