県立美術館で開催中のデジタルファインアート展「親愛なる友フィンセント 動くゴッホ展」が6月下旬の開幕から来場者が2万人を突破するなど盛況である。世界的画家フィンセント・ファン・ゴッホの作品を最新のデジタル技術で表現する試みは、美術に関心がなかった人やメディア芸術を志向する若者の感性を刺激してやまない。県民の知的好奇心を高め心を豊かにするためにも、こうした意欲的な試みに挑み続けてほしい。
企画展に並ぶ作品は、絵画や彫刻など主に美的な鑑賞を目的につくられた作品「ファインアート(純粋芸術)」をベースにしている。これを最新のデジタル技術で再構築し「デジタルファインアート」として動きをつけるなど、新たな視点で表現した。
「名画が動く」という一見奇抜な作品の展示は、同館にとって初めての挑戦だ。「ゴッホ展」をうたいながら直筆作品を置かないという選択は当初同館でも葛藤があり、長年の来場者からは「ゴッホの本物の作品がない」「美術館でやらなくてもいいのでは」という声もあったという。
しかし、開幕1カ月ほどで2万人を超える来場者数は、挑戦が正しかった証左と言える。
デジタルアートは文化芸術振興基本法に示された「メディア芸術」の一つである。最新の技術を駆使した作品は、本県の美術大生や専門学校生にも刺激を与えるだろう。
また作品は、ゴッホの手紙につづられた制作の動機や感情などを丹念に読み解きながら手がけており、親友ゴーギャンを待ち望む気持ちを「揺れるひまわり」で表すなどゴッホの心象風景を可視化した。作品理解の一助としたことで、美術に触れる機会がなかった人が足を運ぶきっかけづくりに一役買っている。
企画展を担当する武関彩瑛(ぶせきさえ)学芸員(32)は「展示作品はもう一つの本物のアート。来場者に親子連れが多く、楽しんでもらえているならうれしい」と意義を強調する。
こうした取り組みは一過性にしないことが肝要だ。同館には同様の企画展を開く際、さらに踏み込んだ趣向を取り入れてほしい。費用や管理などの制約はあるが、作者の直筆画などを一点でも展示しデジタルアートと比較できれば、より多くの耳目を集めるだろう。新たな美術ファンを増やすきっかけにもなる。