県の救急医療提供体制のあり方について検討してきた有識者会議が先月、提言書案をまとめた。高齢化の進行や医療人材の不足、救急医療の増加に伴い「現在のままでは機能不全に陥る恐れがある」と、警鐘を鳴らしている。
現状を県民全体で共有できていないことに対する関係者の危機感が、提言書案から読み取れる。全国と比べた本県の救急医療体制の遅れも指摘された。県を中心に関係者が一丸となって改善に取り組むべきだ。同時に、県民も意識改革に努めたい。
高齢者を中心とした救急医療の需要は、今後ますます増加すると見込まれている。これに伴う救急搬送人員の増加に対し、医師や看護師などの医療従事者の十分な確保は難しい。提言書案は「限られた医療資源の中で、医療の質と持続可能性を確保することが求められる」としている。
その上で重要なのは、県民の理解と行動変容であろう。軽症にもかかわらず、タクシー代わりに救急車を利用するのは論外である。命に関わる重篤な患者の診療に支障を来しかねない。
有識者会議では、この対策として救急車で搬送され入院に至らなかった軽症患者から特別料金を徴収することが検討された。既に三重県松阪市や茨城県が、自治体主導で取り組み始めている。本県も対応を考える時期に来ている。
医療機関側の意識改革も必要だ。救急患者が大病院に集中している現状を改めるべきである。高度な医療提供を伴わない2次救急医療機関で、さらに救急患者を受け入れる必要がある。有識者会議は「受け入れに対するインセンティブ制度の見直し」を提言した。県や市町を中心に検討したい。
関東で唯一未設置の高度救命救急センター整備も求めている。救急医療の中心的な役割を担うとともに、人材育成の場としても期待される。
福田富一(ふくだとみかず)知事は先の知事選で、下野新聞社のアンケートに「提言を踏まえた政策を実行する」と答えていた。本県にふさわしい機能を備えたセンター設置に向け、実行を求めたい。
救急医療は公益性が高い半面、医療機関にとっては「やればやるほど赤字になる」といわれる。大切な医療資源を食いつぶさないよう、これまで以上に官民一体での意識改革が求められる。