NHK-FM「ナカスイ!海なし県の水産高校」(祥伝社)のラジオドラマは、8月1日に最終回を迎えました。みなさま、お聴きくださいましてありがとうございました。企画書が来た約半年前から、「まだかな~」とカレンダーを眺めながら心待ちにしていたのですが、始まるとあっという間に終了。まさに「一炊の夢」でした。

ラジオドラマ「ナカスイ!海なし県の水産高校」出演者のみなさん
ラジオドラマ「ナカスイ!海なし県の水産高校」出演者のみなさん

 一生に一度クラスの大イベントが終了したためか緊張の糸が見事に切れ、1日の夜に発熱し、一週間ほど寝込んでしまいました。しかし、いつまでも横になっているわけにはいかず、パソコンデスクに這いずっていって仕事をせねばなりません。それが有給休暇のない自営業というもの。

 そう、祭りは終わったのです。待っているのは現実。

 個人的には、一年を通して平均的に仕事があるのが理想なんですが、なぜか時期的に偏る傾向があります。今年は昨年同様、お盆にピークを迎えました。

 昨夏は、「ナカスイ!海なし県の水産列車」(祥伝社)と「オリオンは静かに詠う」(小学館)の書き下ろし作業と、「百年厨房」(小学館)の文庫化作業が重なりました。

 書く際、私はイタコのようにキャラを憑依させる「憑依型」のため、一人称で書く作品の方が多く、上記三作品もすべて一人称です。さらに、「オリオン…」は4章仕立てで、章ごとに語り手(=主人公)が変わっていきます。

 つまりは去年のお盆、私は6人の主人公を次々に憑依させてました。

 しかし、ヘタすると「混ぜるな危険」状態になってしまいます。特に「オリオン…」はキャラごとに一人称を変えていたので(私、わたし、あたし、アタシ)、誤植の危険度も上がっていきます。

 対策を考えた結果、作品(と章)が変わるたびに、執筆する部屋を変えることにしました。

 現在の住まいは夫と2人暮らし(そして猫1匹)ですが、かつては大家族だったので、部屋数は結構あります。「この部屋はナカスイ」「あの部屋は『オリオン…』の咲季」「その部屋は『百年厨房』」と部屋ごとにキャラと章を決め、ノートパソコンを持って家の中を移動。

 時間も分け、午前中は「ナカスイ!」で魚モード、午後は「百年厨房」で大正時代、夜は「オリオン…」で百人一首というように、切り替えを心掛けました。

 「百年厨房」⇒「ナカスイ!」⇒「オリオン…」の順に脱稿しましたが、書き終えたら一切忘れるようにし、原稿も絶対目にふれないようにしました(でないとキャラが混じってしまう)。

 当時は大変でしたが、終わってしまえば良い思い出。と、しみじみしてたら、タイミングの関係で、今年のお盆も3冊同時並行と相成りました。

 しかし、現在執筆している作品で一人称は1作品のみ

 1冊目は、今年の晩秋発売予定のジュニア向けエンタメ小説。2冊目は、来年3月発売予定の中高生向け青春モノ(これだけ一人称)。3冊目は4月発売予定の大人向け明治時代グルメ小説…というように、内容も全く違うので混じる危険度がさらに低く、切り替えがしやすいのも良いです。

 と、楽観視していたのですが、3冊目の舞台となる明治時代は初めて書く時代であるうえに、実在の人物が主人公なので(これも初めて)、「これは現地に行って(宇都宮から電車で片道3時間くらい)実際の風景を見てこないと書けない」「現地の図書館で資料調べてこないと無理かも」と、思ったよりも時間が必要になってきました。

明治時代の雰囲気をつかむため、当時の建物見学に。実在のキャラも眺めていたであろう景色(宇都宮から片道3時間)
明治時代の雰囲気をつかむため、当時の建物見学に。実在のキャラも眺めていたであろう景色(宇都宮から片道3時間)
実在のキャラが実際に過ごしていた部屋
実在のキャラが実際に過ごしていた部屋
中にはカフェも有り
中にはカフェも有り

 想像の翼を広げるため、あえて現地取材しなかったり、資料を読まなかったりする作家さんもいらっしゃいますが、私の場合は不安になってしまってダメなのです。

 はたして、来年の4月には無事に店頭に並んでいるのか、タイムマシンに乗って書店に覗きに行きたいところ。

 小説家の中には、毎月1冊12か月連続刊行というすごい執筆量の方もいらっしゃいますが…どうやって切り替えをしているのか、伺ってみたいです。