ウエルシュ菌による食中毒は大量の調理で起こりやすく、カレーやシチュー、肉を含んだ煮物や肉団子などが主な原因食です。

そもそも、ウエルシュ菌は人や動物の大腸内の常在菌で、土壌中にもいます。そして、中にはエンテロトキシンという“毒素”を産生するウエルシュ菌がいて、この毒素産生型のウエルシュ菌が増殖した料理を食べると、ヒトの腸内で菌がさらに増殖して、そこで産生された毒素で下痢を起こします。
肉類や魚介類にウエルシュ菌が付着していることが多く、これらを食材とした料理を加熱調理した後に長時間、室温で放置した場合に起こりやすいです。調理の加熱で多くの他の菌は死滅しますが、ウエルシュ菌は“芽胞”という強い耐久性を持つ外皮を作って生き残ります。
そして、室温で冷却されると、ウエルシュ菌が増えるのに都合の良い至適温度(43~47度)で増殖を開始します。増殖速度も速く、45度では10分で2倍にもなるので、台所で鍋を室温で置いている間にどんどん増えます。冷めた料理を再加熱して温度が上がって至適温度に近くになってくると、また菌が大増殖を再開して、熱くなれば芽胞で生き残ります。これを繰り返します。
またウエルシュ菌は酸素が嫌いな嫌気性菌で、大量の料理を加熱調理すると内部の空気が熱で追い出され、より増殖しやすくなるのです。料理をよくかき混ぜて、空気に触れさせることが大切です。
こうして、料理の栄養素と水分を利用して、ウエルシュ菌は急激に増え、毒素を産生して、下痢の原因となります。この菌が増えても腐敗している訳ではありませんから、匂いなどの変化は感じられません。だから、気づかないで食べてしまうのです。
潜伏期間は約10時間(6~18時間)。主な症状は腹痛と下痢で、ほとんどの場合は1日1~3回程度の軟便と水様便です。多くは1~2日で回復します。料理はすぐに冷却、小分けして低温保存が安全ですね。

おかだ・はるえ 医学博士。専門は感染免疫学、公衆衛生学。テレビやラジオへの出演や執筆活動を通じて、感染症対策の情報を発信している。