顧客や取引先が理不尽な要求をするカスタマーハラスメント(カスハラ)の防止に向け、県は来年2月に県議会へ条例案を提出する方向で検討を進めている。可決されれば2026年度早々に施行される見込みという。
改正労働施策総合推進法は、カスハラを「社会通念上、許容される範囲を超え、労働者の就業環境を害する言動」などと定義した。来年中にもカスハラ被害から労働者を守る対策が、全ての企業に義務化される。
対策に取り組む県内の企業はまだ少ない。国は具体的な指針を策定する予定だが、本県の産業構造や企業の傾向を踏まえた独自の視点も必要だろう。県は条例制定と合わせ、幅広い業種から事例を収集することなどに努め、どんな場合に対策が必要になるのか判断基準を示してほしい。
県が今年2、3月に実施した実態調査によると、過去3年間にカスハラを経験したことのある県内の労働者は約4割に上った。男性と比べ女性の方が経験した割合が高く、51・1%と過半数に上った。
一方、基本方針の策定や被害相談窓口の設置など、カスハラ対策を実施している県内企業の割合は約2割にとどまる。従業員規模が大きくなるほど対策を実施している割合は高い傾向にあり、従業員30人未満の小規模事業所の半数以上は実施していない。対策をするにも「判断基準が不明瞭」との課題を挙げる企業が6割超あった。
傷害や脅迫、強要などの不法行為は論外だが、実際にはカスハラと正当な苦情を見分けることが難しいことも想定される。消費者団体からは、消費者の疑問や意見を商品やサービスの開発、改善につなげることが難しくなるとの懸念も出ている。
6月に開かれた県の有識者会議では、具体的な取り組みを定めたマニュアルの必要性が指摘された。県内企業も6割が行政に指針などの策定を求めている。条例案の骨格としてカスハラの定義や事業者、顧客らの責務が想定されているが、条例の実効性を担保するためには、具体的な指針を策定することが有効になるはずだ。
県民への周知・啓発も重要だ。どんな行為がカスハラに当たるのかを事業者や消費者が共に考える機会があれば、社会全体で防止する機運も高まるだろう。