矢板市は本年度、民生委員協力員制度を導入した。全国でなり手不足が深刻化する民生委員の負担軽減などを図る目的で、市によると県内自治体で初めてという。制度への理解を広げ、地域福祉の充実につなげてほしい。

 協力員はボランティアで民生委員の活動を補佐する。地域の見守りに同行して高齢者らの安否確認、熱中症への注意喚起などを実施。「補助があれば活動しやすい」との現場の声も踏まえ、市は制度を創設した。7月、第1号として60代男性を委嘱した。

 住民の立場に立って地域の福祉を担う民生委員の活動は、相談対応や調査・実態把握、証明事務、訪問などと幅広い。民生委員の役割が増す中、県の担当者は「活動の整理が必要」と受け止めており、そのために情報通信技術(ICT)の活用などを例に挙げる。

 人口減少や高齢化に伴う社会構造の変化で、地域課題は複雑・多様化している。民生委員の負担軽減は急務で、活動環境の整備などを一層進めるべきだ。

 民生委員は、自治会などが候補者を選び知事などの推薦に基づいて厚生労働大臣が委嘱する。非常勤の特別職の地方公務員だが、無報酬で任期は3年。今年は一斉改選の年に当たり、12月に行われる。

 県によると、中核市の宇都宮を除く県内の民生委員は2022年の改選時、定数3168人に対し3025人で充足率は95・5%だった。16年98・2%、19年96・4%と低下し、欠員が増えた。世帯数を踏まえ決まる定数が核家族化に伴って増加した一方、委嘱数は伸びなかったためだ。

 矢板市は定数74人で欠員は生じていないが、今後への危機感は強い。民生委員の平均年齢は7月1日時点で72・13歳。なり手は限られているのが実情で、高齢化がさらに進めば不足する恐れはある。

 担い手の掘り起こしのためにも、市は協力員制度を取り入れた。県も講座やチラシで民生委員の活動を周知し、協力者や後継者の育成に取り組む。担い手確保策の広がりや、その効果に期待したい。

 1917年に岡山県で誕生した済世顧問制度が始まりとされる民生委員制度。時代とともに地域コミュニティーは変化し、制度もその対応に直面し続けている。制度の維持や改善に向けて、さらなる議論も必要である。