地震や豪雨災害時には、破傷風が心配です。破傷風は世界中の土壌にいる破傷風菌の感染によって起こります。泥の中でケガをした傷や火傷の傷口、また農作業や庭いじりなどによる小さな切り傷などからも、破傷風菌の芽胞が体内に侵入します。すると破傷風菌がそこで発芽、さらに増殖して毒素を産生します。

 

 この神経毒素が傷の周囲の運動神経から神経細胞に取り込まれ、神経機能を侵しながら、脊髄・脳神経の運動神経中枢に向かって移行していきます。そして、治療が遅れれば、全身の筋肉にけいれん性の強い硬直が起こり、その結果、呼吸困難にもおよびます。

 平時の日本では、年間約100人の破傷風患者が発生しています。患者は30歳代から報告がありますが、中心は中高年層です。1968年から破傷風トキソイドワクチンがジフテリア・百日咳、破傷風3種混合ワクチンとして定期接種となりましたが、それ以前に生まれた人は、大きなケガをして治療を受けたなどの特別な理由がない限りは、破傷風トキソイドワクチンを受けていません。30歳代以上の方も子どものときにワクチンを受けてから、10年以上が経過してワクチン免疫が低下しています。

 2011年の東日本大震災の後の被災地では、十例の破傷風感染者が報告されました。災害時は受傷する危険性も高い上に医療どころか、傷を洗い流すためのきれいな水さえないという状況に陥ります。破傷風菌の芽胞が存在する泥などの不純物や病原体を洗い去ることができないまま時間が経過してしまうと破傷風菌の感染が成立し、さらに治療が遅れると発症のリスクが高まってしまいます。

 破傷風はワクチンで予防できます。大規模災害時には医療も限られますから、平常時の今から、破傷風トキソイドワクチンを接種して予防しておくことは、自身でできる防災対策です。未接種の人は任意で医療機関を訪れ、沈降破傷風トキソイドワクチンなどを接種することが勧められます。定期接種を受けた人も、10年以上を経過している場合は追加接種すると良いでしょう。

岡田晴恵教授
岡田晴恵教授

 

おかだ・はるえ  医学博士。専門は感染免疫学、公衆衛生学。テレビやラジオへの出演や執筆活動を通じて、感染症対策の情報を発信している。