真岡市は本年度、防災対応などを助言する「気象防災アドバイザー」を県内自治体で初めて職員として採用した。各自治体には防災担当部署があるものの、人事異動などで知識の蓄積がしづらい事情もあり、この採用は防災行政の充実へ大きな一歩と言えるだろう。このような専門家の配置が県内他市町へ広がり、経験や知見が住民に還元されることを期待したい。
採用されたのは気象庁OBで東京都出身の気象予報士内田秀治(うちだしゅうじ)さん(65)。会計年度任用職員として今春から市内に定住し市危機管理課に籍を置き、地域防災計画の策定支援や防災講話、避難指示を巡る災害対策本部の意思決定への助言などに努める。豊富な知識に基づき真岡に絞ったピンポイントの予測、対応をできるのが強みという。そのノウハウや防災意識が庁内全体に浸透し、市民の啓発にもつながるに違いない。
気象防災アドバイザーは研修を受けた予報士のほか、要件を満たす気象庁退職者などを国土交通相が委嘱する。委嘱されたアドバイザーは2025年4月現在、全国で378人。県内在住はわずかに4人で、その1人が市の募集に応じた内田さんだ。貴重な戦力として地域防災にどんな効果をもたらすか、追随を視野に入れる県内他市町の担当者も注視しているはずで、その意味でも重要な役割を担っていると言えよう。
気象庁は都道府県それぞれに最低5人程度の職員登用を目指している。情報発信側の気象台と受信側の自治体双方の機能を同時に向上させ、地域防災力強化を推進するためだ。だが現実には、研究機関や防災関連企業などが多く立地する大都市圏に人材が偏る傾向があり、地方都市では候補者が少ないのが実情だ。
一方、採用する側の自治体にも人件費の確保という課題がある。アドバイザーに対する地域の理解がいまひとつ浸透していないことも、採用拡大の足かせになっているとみられる。
本県に甚大な被害をもたらした15年9月の関東・東北豪雨から10年。10月には19年の台風19号直撃から6年を迎える。内田さんは「各自治体は気象を学ぶ姿勢が必要」と語る。大災害は、ある日突然、想像を超える規模でやってくる。「学ぶ姿勢」の大切さを現場で体現し、市民のために最善を尽くしてほしい。