論文発表
論文発表者
青田 幸大(東京農業大学大学院 農学研究科、現所属:東京大学大学院 農学生命科学研究科)
菊地 デイル 万次郎 助教(東京農業大学 農学部)
関口 雄祐 教授(千葉商科大学 商経学部、現所属:千葉商科大学 基盤教育機構)
論文のポイント
・イルカやクジラの睡眠には、ほとんど動かない「静止型睡眠」と泳ぎながら眠る「遊泳型睡眠」の2種類がありますが、どのように使い分けているか十分には理解されていませんでした。
・本研究によって体が大きく水温が高いほど静止型睡眠が増え、体が小さく水温が低いほど遊泳型睡眠が増えることが分かりました。体格が小さいほど、水中で体温が下がりやすいためだと考えられます。
・本研究は、鯨類が水中という過酷な環境でいかにして体温を保ちつつ眠っているかを理解する手がかりとなります。さらに、近年の急激な海水温上昇が鯨類の生態にどのような影響を及ぼすのかを予測するうえで重要な知見を提供することが期待されます。
論文内容
東京農業大学大学院 農学研究科の青田 幸大 大学院生(現:東京大学大学院 農学生命科学研究科 博士課程、⽇本学術振興会特別研究員 DC2)、東京農業大学 農学部 生物資源開発学科の菊地 デイル 万次郎 助教、および千葉商科大学 商経学部(現:千葉商科大学 基盤教育機構)の関口 雄祐 教授らの研究グループは、飼育下の鯨類が体の大きさと水温に応じて睡眠行動を調節している可能性を明らかにしました。
鯨類は肺呼吸動物であるため、定期的に水面に浮上しなければならず、さらに冷たい海水によって体温が奪われやすいという課題に直面しています。こうした状況でどのように睡眠を達成しているかは長らく注目されてきました。鯨類の睡眠は、筋運動を伴う「遊泳型睡眠」とほとんど運動を伴わない「静止型睡眠」に分けられますが、その使用頻度は種や個体によって異なるため、状況に応じて戦略的に使い分けていると考えられてきました。しかし、その決定要因や生理的意義は十分には理解されていませんでした。
本研究では、鯨類の体温保持に着目し、「体サイズや環境温度に応じた相対的な熱損失量が睡眠様式の選択を決定する」という仮説を検証しました。具体的には、体重100–10,000 kgに及ぶ10種の飼育下鯨類の休息・睡眠行動を観察・調査し、種間および種内でその量や時間を比べました。その結果、体サイズが大きいほど静止型睡眠が増え、小さいと遊泳型睡眠が増えることが定量的に示されました。これは、体重に対する体表面積の比率が小さくなることで大型個体ほど熱を失いにくく、静止状態でも体温を維持できる一方、小型個体は熱損失が大きいため筋運動による熱産生を伴う遊泳が必要になることを反映していると考えられます。
さらに、水族館でおなじみのバンドウイルカでは、環境温度が低いと遊泳型睡眠が増え、環境温度が高いと静止型睡眠が増えることも確認されました。これは、周囲の温度の低下によって熱損失が増大し、それを補うために運動を伴う睡眠様式が選択されることを示唆します。
これらの結果から、鯨類は体サイズおよび環境温度に応じて睡眠様式を調整する行動的体温調節戦略を用いていると考えられます。すなわち、熱損失は水中での睡眠達成における最大級の課題であり、それを克服するために鯨類は複数の睡眠様式を柔軟に使い分けていると言えます。この知見は、鯨類の水中環境への二次的な適応メカニズムを理解する上で有益であり、さらに、変動する海洋環境に対して睡眠行動をどのくらい変化させられるのかを把握するための重要な基盤になることが期待されます。
発表者(関口)コメント
(注)関口は、イルカ類の睡眠研究を約30年続けてきている
鯨類は、その睡眠のほとんどが半球睡眠です。なぜ、半球睡眠をするのか、言い換えると、なぜ、眠りながら動く必要があるのか?については、長らく議論が続いてきました。たとえば、呼吸確保、持続的遊泳、捕食者対策(警戒)、はぐれ防止などです。本論文ではその答えとして、「熱産生(体温保持)」のために“遊泳型睡眠”をすることを定量的に示すことができました。ただし、論文中では、生理的状態である半球睡眠にはあまり触れず、行動パターンとしての「遊泳型睡眠」と「静止型睡眠」の意義を検討してきました。
「大型種ほど静止型睡眠」することは、鯨類と船舶の衝突事故の例からも理解できます。大型種であるマッコウクジラなどの船舶衝突事故が知られますが、このクジラも「静止型睡眠」でプカプカ浮かんでいたところを船に不意打ちされたのでしょう(小型イルカの船舶衝突を聞くことはありません)。
また、本論文の結果は、気候変動による海水温の上昇が、鯨類の睡眠行動に影響することを示唆します。本論文で示したように、バンドウイルカは、水温の上昇で、静止型睡眠が増加します。このように、海水温上昇は、静止型睡眠をする鯨類の増加につながり、よりも小型種でも船舶との衝突事故のリスクが高まることが予想されます。
発表雑誌
雑誌名: Journal of Zoology
論文 タイトル:The larger the cetacean, the more stationary their sleep? Thermoregulatory constraints on the sleep behaviour of captive cetaceans
著者:K. Aota, Y. Sekiguchi, D. M. Kikuchi
DOI番号:https://doi.org/10.1111/jzo.70062
【東京農業大学(共同研究)】海で眠るには工夫が必要?──小さいクジラは泳いで眠る
学校法人東京農業大学
10:56
速報
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