聴覚障害者のオリンピックとも言われる国際スポーツ大会、第25回夏季デフリンピック競技大会東京2025は11月15日の開幕まであと1カ月に迫った。1924年にフランスで第1回が開催され1世紀余りの歴史があるが、日本での開催は初めて。日本選手団として県勢4人が出場する今大会を契機に、聴覚障害について理解を深めたい。
補聴器なしで普通の声の会話程度55デシベルが聞こえない選手が出場する。今大会は同26日まで19競技などを実施するが、ルールはオリンピックとほぼ同じだ。一方で競技のスタートや判定の合図にランプの光を使い、球技の主審は手旗で判定を知らせるなど、視覚で情報を伝えるデフリンピックならではの工夫もある。
今大会には70~80の国・地域から選手約3千人、審判やスタッフを含めると約6千人が集まる。日本からは全競技に史上最多の273選手が出場する。県勢はサッカー女子の増田香音(ますだかのん)(22)、伊東美和(いとうみわ)(24)、ゴルフの辻結名(つじゆうな)(19)、ボウリングの村野美幸(むらのみゆき)(60)の4選手。会場は開閉会式が行われる東京体育館をはじめ東京都内を中心にサッカーのJヴィレッジ(福島県)など、本県から比較的近い場所が多い。競技観戦は基本的に事前申し込みが必要なく無料である。本県からもぜひ会場を訪れ、県勢選手を応援してほしい。
選手は手話や視線、表情で意思疎通を図る。競技をつぶさに観戦すれば、聞こえないということがどういうことなのか、聞こえる人も想像することができるはずだ。障害者差別解消法にある合理的配慮が何なのか、思いを巡らすきっかけにしてもらいたい。
県内で聴覚・平衡機能障害で身体障害者手帳の交付を受けている人は24年3月末現在で8334人。補聴器なしで普通の会話が聞き取れない人が対象とされており、おおむねデフリンピック出場条件と同程度だ。日常生活での合理的配慮には、手話や筆談だけでなく、身ぶりを使い、難聴者にはゆっくりとはっきり話すなど、できることはたくさんある。
21年の東京パラリンピックに続く、障害者のスポーツの祭典だ。大会の成功と県勢選手の活躍が国内、そして本県に、障害があってもなくても自分らしく生きられる共生社会の実現というレガシーを残すことを期待したい。