フィールドワーク型ツアー「さんぽ大学」に吉見俊哉さんの案内で参加する人たち=2024年11月、東京・上野の博物館動物園駅跡(提供写真)

 再開発が進む渋谷の街を背にする国学院大教授の吉見俊哉さん

 Chim↑Pom from Smappa!Group「穴の中の穴の中の穴」展示風景(2025年、ANOMALY、東京 撮影:森田兼次)(提供写真)

 Chim↑Pom from Smappa!Group「カッティング・ビルバーガー」2025 ミクストメディア(学士会館新館から切り出されたフロアの床、各階の残留物)(左)、「ビルバーガー」2025 ミクストメディア(神田通信機株式会社本社ビルから切り出されたフロアの床、各階の残留物)(撮影:森田兼次)(提供写真)

 小浪次郎さんの作品(Image by:(C)JIRO KONAMI)(提供写真)

 フィールドワーク型ツアー「さんぽ大学」に吉見俊哉さんの案内で参加する人たち=2024年11月、東京・上野の博物館動物園駅跡(提供写真)  再開発が進む渋谷の街を背にする国学院大教授の吉見俊哉さん  Chim↑Pom from Smappa!Group「穴の中の穴の中の穴」展示風景(2025年、ANOMALY、東京 撮影:森田兼次)(提供写真)  Chim↑Pom from Smappa!Group「カッティング・ビルバーガー」2025 ミクストメディア(学士会館新館から切り出されたフロアの床、各階の残留物)(左)、「ビルバーガー」2025 ミクストメディア(神田通信機株式会社本社ビルから切り出されたフロアの床、各階の残留物)(撮影:森田兼次)(提供写真)  小浪次郎さんの作品(Image by:(C)JIRO KONAMI)(提供写真)

 ◎今週の一推しイベント

 【25日(土)】

 ▽「東京を身体で感じる『さんぽ大学』」(都内各地、事前予約制)

 東京の街を歩き、「散歩」という日常的な行為を通して都市の過去、現在、未来を探るユニークなフィールドワーク型ツアー「さんぽ大学」が、研究者らを案内人や座学の講師として回を重ねている。

 2年に1度の国際芸術祭「東京ビエンナーレ」(~12月14日)の一環として11月28日に行われるのは、国学院大教授の吉見俊哉さんが案内する特別課外講義「上野~本郷~茗荷谷編」(12時、上野恩賜公園 西郷隆盛像前集合)だ。都市に残されている江戸時代から明治、大正から昭和までの風景をたどる。

 「歴史を振り返れば松尾芭蕉から永井荷風まで、近年では作詞家の永六輔さんなど日本人は散歩に深く親しんできた。寄り道した場所で思いがけない発見があり、それが創造的な行為につながっていく」と吉見さんは話す。

 「近代資本主義が徹底させた目的への最短ルートを取り、資本の回転率を上げるのとは全く違う精神を、身体で感じられる行い」として、吉見さんが掲げる散歩の3鉄則は、狭い道、曲がった道、上り下りのある道を選んで歩くこと。今回のコースも入り組んだ地形が特徴だ。

 「西日暮里の繁華街からトンネルを一つ越えると、坂の上に谷中の神社の境内が現れる。上野の丘から不忍池へ、また本郷の丘へ、東京の地形は高低差が激しく風景がガラッと変わる。大通りを歩かないからこそ、タイムトラベルのように違う時代の景色に出合える」。歩くうちに、足の裏に「こっちに行くと面白いぞ」という“触覚”が身についていくという。

 吉見さんは昨年末に「東京裏返し 都心・再開発編」(集英社新書)を刊行。今日の大規模再開発が、都市の地形すら変えてしまう現状を批判する。「裏道や墓地までなくしてしまうのは、地域の記憶を抹消する罪深い面がある。一方で今、川筋や暗渠に通じる場所で若者たちが集まり、新しい文化が生まれている現象は面白い」 

 ○そのほかのお薦めイベント

 【25日(土)】

 ▽「Chim↑Pom from Smappa!Group 個展 穴の中の穴の中の穴」(~11月9日、品川区・ANOMALY)

 大量廃棄など現代社会が周縁化してきた領域に視線を向けた作品で知られる美術家集団「Chim↑Pom(チンポム) from Smappa!Group」の新作が、天王洲のギャラリーに登場した。

 新作の多くは、都市の排せつ物に口を開けるマンホールや下水の「穴」と、宇宙に漂うくずやがれき「スペースデブリ」を横断的に結びつけた。メンバーの卯城竜太さんは、2023年のナラッキー展で新宿歌舞伎町の王城ビルの吹き抜けを展示空間にした「奈落」のメタファーとして、“穴”の機能に着目したという。

 「空を見上げれば、いまやイーロン・マスクの事業領域となった宇宙で、夢やロマンの残骸としてスペースデブリが星のように輝いている。究極の廃棄物である宇宙ごみをテーマに、これまで社会から切り捨てられてきた存在を可視化した」と話す。

 「穴の中の穴の中の穴」は、チンポムが宇宙分野の専門家と初めてコラボした作品。宇宙実験・観測フリーフライヤ(SFU)にスペースデブリが衝突した痕を専門家が撮影、それを拡大してノイズを編集した。宇宙ごみによって生じた痕跡を大画面で示し、ネガティブに捉えられがちな穴の概念に、希望の物語を見いだす試みだ。「不安が漂う社会で“穴”を突き抜けても、長い時間軸で見れば、その先に新たな世界やエネルギーが広がっているかもしれない」

 解体されたビルの廃棄物を重ねて彫刻化した「ビルバーガー」シリーズの新作2点も展示。学士会館新館の床材を使った彫刻は「戦後に積み重ねられてきた知性が失われないよう、都市の記憶を地層のように刻みたかった」と卯城さん。既存の社会への問いを呼び覚まされる展覧会だ。

 ▽「小浪次郎個展『I.D1986』」(~11月2日、港区・アニエスベー ギャラリー ブティック、入場無料)

 アート写真からファッションなどのコマーシャルフォトまでを手がけ、国内外で活躍する写真家・小浪次郎さんの展覧会が青山で開かれている。

 大学時代から新宿歌舞伎町やゴールデン街で道行く人々を撮り始めた。東京のストリートや、現在の活動拠点ニューヨークで約20年にわたり撮影した約100点を展示。行き交う人々、動物や植物と向き合いながら、一瞬の表情や動き、風景を捉えた作品群が強い存在感を放つ。

 それぞれの写真にタイトルはなく、場所も撮影年も記していない。「刹那的な瞬間を捉えたいという衝動を、若い頃から変わらずに持ち続けている彼の作品には、時系列に大きな意味はないのではないか」とギャラリーディレクターの古宇田リヴォー朱美さんは話す。

 新宿らしき場所にたたずむ若者、ニューヨークの街を行く人、岡本太郎さんの「太陽の塔」、ダンサーの田中泯さんの姿を一見ランダムに並べてある。印象的な一枚は坂本龍一さんの手だけを写した作品。鑑賞者には誰の手なのか分からない。「写真家にとって、被写体が有名か無名かは関係ないのだと思う。そんな精神が、今回の展示方法にも表れている気がする」

 約20年前の雨の日、高円寺の公園を散歩する友人の後ろ姿を写した写真は、今もみずみずしさを失っていない。その時の感受性は永遠に刻まれ、見る者の記憶を揺さぶる。