県内の自治体や博物館が、戦争関連の資料の受け入れに苦慮している。戦後80年を機に歴史的価値を見いだす人が増え、寄贈の申し出に応えきれないのが実情という。収蔵庫にも限りがある。貴重な資料が散逸する前に、また戦争経験者が存命しているうちに、持続可能な保管のあり方を見いだすべきだ。
個人から寄贈の申し出がある資料は多岐にわたる。写真や日記、手紙などの文献、衣類や生活用品などもある。
県立博物館は今夏、40年にわたる活動を終えた市民団体「ピースうつのみや」から資料約300点を受け入れた。本年度はこのほかにも複数の申し出を受けている。戦争資料を収容する収蔵庫は既に9割ほどが埋まっており、余裕がないという。
県内の他の博物館や資料館も似たような事情だ。小山市立博物館は「現状で既に廊下まで資料を置いている状況」。那須町の那須歴史探訪館では収蔵庫が100%を超えており、寄贈相談については選別せざるを得ない。
まずは県内各地で戦争資料の保管状況を把握すべきだ。未整理の資料があれば台帳を作成し、データベースを公開できるといい。重複または類似の資料を抱えるのを、防ぐことができる。県立博物館や県文書館のリーダーシップに期待したい。
廃校になった校舎を収蔵庫として利用する例もある。高知県立歴史民俗資料館では、空調がなくても傷みにくい資料を選んで廃校に置いているという。新たな収蔵庫を建設するよりは安上がりだ。参考になる取り組みだろう。
現物を保管できない場合は、資料をスキャンや3D撮影するなどしてデジタル化して保存するのも一案である。物理的なスペースを節約できる。その際はオンラインで公開し、一部は有料であっても誰もがアクセスできるようにしてほしい。
それでも資料を譲渡したり、廃棄したりせざるを得ないこともあるだろう。資料受け入れや除籍の明確な基準、ガイドラインの策定が必要だ。廃棄してから歴史的な価値が判明し、大慌てするような事態は避けなければならない。
戦争資料に対する意識の高さは、自治体ごとに濃淡があるとされる。知識のある学芸員の存在などもまばらだ。県は市町任せにせず、ノウハウや財政面で支援すべきだ。
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