古墳時代から飛鳥、奈良時代にかけた史跡が多く残る下野市が、高松塚古墳や石舞台(いしぶたい)古墳など国内有数の史跡が現存する奈良県明日香村と包括連携協定を締結した。今後は双方の地域資源や強みを最大限に生かしながら、持続的な発展を目指していくという。

 飛鳥時代、大宝律令制定へ奔走した市ゆかりの下毛(しもつけ)野朝臣古麻呂(のあそんこまろ)が、飛鳥地方と市を往来して紡いだ縁。約1300年という時を経て、自治体連携という形でようやく結ばれた格好だ。まさに新たな出発点である。それぞれが抱える課題を理解し合い、早急に文化財保護や地域振興へ向けた具体策を示したい。

 下野市には東国の仏教文化の中心的な役割を担った下野薬師寺跡や、下野国分寺跡などの史跡がある。古墳も200基以上を数え、市は古代の文化財を活用したまちづくり「東の飛鳥プロジェクト」を展開する。一方明日香村は、かつて飛鳥京として名をはせた「古代ロマンの里」だ。下野市にとって今回の協定は、プロジェクトを深化させる上で必要不可欠なピースだったと言える。

 協定の柱は「歴史・文化・観光等を通じた相互交流」「災害時の相互応援」「その他、友好関係を構築するための必要な事項」の3項目。ただ実質的な連携は既に始まっている。下野市は今春、「飛鳥・藤原の宮都」の世界遺産登録を目指す明日香村を支援するため、市内でパネル展示や関連グッズ販売を行っている。今後は協定を背景により一体的な事業も必要になろう。

 共同事業を実現させるには、財政上の問題をクリアしなければならない。遠隔地ゆえに視察や会合へのコストはかさむ。双方納得の上で事業予算を確保する必要もある。オンライン会議を活用する一方、定期的に顔を合わせて意思統一を図る仕組みを構築したい。また災害対応を含む他分野連携を恒久的に推し進めるためには、さまざまな専門性を備えた人材の育成や確保が必要となる。各分野で年単位の人事交流を検討してもいいのではないか。新たなアイデアも生まれてくるはずだ。

 「東の飛鳥」は既に、市民の誇りとして根付きつつある。今回の協定が形式的になり、形骸化することだけは避けなければならない。優先順位を明確にし、市民との合意形成を図った上で夢のある施策を実現してほしい。