宇都宮市が進める次世代型路面電車(LRT)のJR宇都宮駅西側延伸事業が、2036年3月の開業に向け進み出した。先月下旬、軌道事業の特許取得に必要な軌道運送高度化実施計画を国に提出し、道路拡幅区間の地権者らを対象にした説明会も始めた。
昨年の市長選で佐藤栄一(さとうえいいち)市長は「30年開業」を掲げて6選した。延伸が現実味を帯びたことで、整備区間の大通り周辺は再開発の動きが加速している。開業延期となったが、その時間を生かしLRT効果を最大化できる街づくりを進めるべきだ。再開発や商業施設の整備に動く事業者など民間ともビジョンを共有し、官民連携で質の高い都市開発を実現してほしい。
延伸区間は「宇都宮駅東口」~「教育会館前」の4・9キロ。市は698億円(税抜き)を投じ、開業まで10年の歳月をかける。目的は市内の地域拠点を多様な公共交通で結ぶネットワーク型コンパクトシティ(NCC)の形成だ。人口減の中、公共交通の要としてLRTを整備し、路線バスなどを再編して利便性を高める。車に頼らなくても生活できる地方都市の姿を描く。
実現には市民の合意形成が不可欠だ。一部区間は道路拡幅に伴う用地取得が計画される。長年住み慣れた土地を手放す可能性のある住民もいる中、市は整備の意義を含めて丁寧に説明してほしい。
一方、西側延伸を見据えた民間の動きは活発化する。車社会が進み、郊外型店舗が増えた影響などが長らく続いてきた市中心市街地だが、大通りにある旧デパートの建物はホテルとして28年に開業予定。西口の一等地には30年度完成を目指しタワーマンションや商業施設が整備される。30年以上前から再開発が検討されてきた市中心部の「バンバ地区」も、ホテルやマンションの整備計画が表面化した。
民間投資が加速し、経済界からは「新型コロナ禍で撤退した企業が戻ってくるといい」「沿線に本社があれば都心からも通勤しやすくなり、人材確保につながるのでは」と期待の声も上がる。こうした声を見過ごしてはならない。
物価高や建設業界の人手不足の影響で36年開業に懐疑的な見方も一部にあるが、街は明らかに変わりつつある。開業までの時間を街づくりを伸展させる機会ととらえ、巨額の税金を投じる事業に見合った効果をもたらしたい。
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