1.概要
東京都立大学、東北大学東北アジア研究センター、ネヴァダ大学リノ校、オレゴン州立大学コーヴァリス校、スポーケン先住民保存プログラムおよびウィスコンシン大学マディソン校の国際研究グループは、北アメリカ大陸における最初期の現生人類遺跡の石器技術の特徴を研究し、新たな仮説を提示しました。
約13,500年前を遡る、北アメリカ大陸の10箇所のプレ・クロヴィス遺跡において石器技術と組成に高い共通性があることを発見し、「アメリカ上部旧石器時代(AUP)」と呼ぶことを提案しました。
これまで、北アメリカ大陸におけるプレ・クロヴィス遺跡の詳細は十分に解明されておらず、考古学的証拠に基づくプレ・クロヴィス文化の特徴と起源に関する研究は極めて限られてきました。古代ゲノム研究では、アメリカ大陸の基層集団が約25,000年前に北東アジアで形成され、約20,000年前以降に南下したとされていますが、まだこの孤立・ボトルネックがどこで起こったのか特定することはできないため、その場所がどこであったのかを論じるために考古学的証拠を用いる必要があります。私たちの研究グループは、これら北アメリカ大陸の上部旧石器時代遺跡の出土遺物の特徴には高い共通性があり、明確な1つのパターンを示していること、また、このパターンはこれまで北東アジア上部旧石器時代の遺跡から確認されている技術と多くの点で類似していることを確認しました。そのうえで、アメリカ上部旧石器時代集団は、古サハリン北海道千島半島(PSHK半島)に起源を持つことを推測しました。AUPに属する石器群とPSHK半島の最も重要な類似性は、剝片・石刃技術と両面加工技術が基盤として共に用いられていたこと、そして狩猟具として最も優れた形態である、弾道性能と耐久性の高いECOP(楕円断面オージャイヴ投射物)デザインの両面加工有茎尖頭器が製作されていたことであり、これらは既存の研究ではほとんど指摘されていませんでした。
本研究は、考古学的証拠に基づき、これまで有力視されていたベリンジア滞留説に代わる新たな仮説として、PSHK半島が最初のアメリカ人(First Americans)の祖先集団が形成された有力な候補地である可能性を提示しています。
本研究成果は、2025年10月22日にScience Advances誌でオンライン公開されました。また、この論文は、2025年10月23日にScience誌の研究ハイライトとして取り上げられました。
論文名:Characterizing the American Upper Paleolithic
著者名:David B. Madsen(ネヴァダ大学リノ校人類学科)、Loren G. Davis(オレゴン州立大学コルヴァリス校人類学科)、Thomas J. Williams(スポーケン先住民保存プログラム)、Masami Izuho(出穂雅実・東京都立大学歴史学・考古学教室)、Fumie Iizuka(飯塚文枝・ウィスコンシン大学マディソン校人類学科、東北大学東北アジア研究センター)
掲載誌:Science Advances
DOI:https://doi.org/10.1126/sciadv.ady9545
研究費:文部科学省科学研究費補助金「日本列島域における先史人類史の統合生物考古学的研究―令和の考古学改新―」の計画研究B01班「日本列島域にいたる先史人類形成過程の解明」
Science誌に掲載された研究ハイライト:
タイトル:Defining an American Upper Paleolithic
著者名:Mark Aldenderfer
DOI:https://www.science.org/doi/10.1126/science.aed2501
2.ポイント
・北アメリカ大陸に最初に出現した現生人類遺跡の証拠について、その年代と石器技術の特徴を総括しました。
・考古学による文化的証拠の研究から、彼らは約18,000〜13,500年前には北アメリカに拡散し、その石器技術は明瞭なパターンを形成していたことを明らかにしました。この考古学的なパターンを「アメリカ上部旧石器時代(AUP)」と名付けました。
・AUPの石器技術は剝片・石刃技術と両面石器技術の両者を基盤としており、これらが北東アジアの上部旧石器、特に古サハリン-北海道-千島半島(PSHK半島)の同年代の技術と最も共通していることが確認できました。
・これまで不明瞭だったアメリカ大陸への最初の現生人類の拡散モデルを考古学のデータにもとづき組み立てた重要な成果です。
・本研究の考古学的成果は、古代ゲノム研究から示唆されている北東アジアから北アメリカへの現生人類集団拡散史と矛盾なく、今後はこれをPSHK滞留説として細部を検討していくことになります。
3.研究の背景
最近の古代ゲノム研究によれば、南北アメリカ大陸の基層集団(founding population)は約25,000年前に北東アジアのどこかで形成され、その後、約5,000〜4,000年間にわたる地域的な孤立(stand still)またはボトルネックを経て、約20,000 年前以降にローレンタイド・コルディレラ両氷床の南側へ拡散してアメリカ大陸に進出したとされています。しかし、古代ゲノム研究では、まだこの孤立・ボトルネックがどこで起こったのか特定することはできないため、その場所がどこであったのかを論じるために考古学的証拠を用いる必要があります。
北アメリカへの現生人類集団の移住については、これまでベリンジア滞留説が有力視されていました。ベリンジアとは、アメリカ大陸とユーラシア大陸に後期更新世に存在した陸橋を挟む極北の地域を指します(論文のFigure1参照)。この説は、古代ゲノム研究の成果によって示された孤立・ボトルネックが生じた地域がベリンジアではないかとの推測に基づいて設定されましたが、約20,000年前に遡る人骨証拠や考古学的証拠が発見されておらず、その仮説の妥当性に疑問が生じていました。
4.研究の詳細
北アメリカ大陸南半のオレゴン州、アイダホ州、ウィスコンシン州、テキサス州、およびフロリダ州などに広く分布する、合計10遺跡の年代測定に基づくと、現生人類の最初の居住は約18,000〜13,500 年前に認められることがわかりました。このような北アメリカ大陸の広範囲にわたる拡散が達成されるには少なくとも数千年を要したと考えられるため、最初期の現生人類の拡散が約20,000年前あるいはそれ以前に起こった可能性が示唆されます。
これらの初期の遺跡から出土した石器については、狩猟に用いられた両面加工有茎尖頭器(Bifacial stemmed point)の形態に差異が見られるものの、石器技術には多数の共通する特徴が認められました。その共通点には、(1)二次加工石器の素材が、剝片、石刃、および両面石器技術によって準備されるという石器技術の基盤の組み合わせが一致していること、(2)狩猟具として最も優れた形態である、弾道性能と耐久性の高いECOPデザインが共通しているといった石器技術の基本的特徴が含まれています。
このような剝片・石刃技術と両面加工技術を併用する現生人類の行動戦略は、ユーラシア全域の多くの上部旧石器時代後期(LUP)石器群に共通しています。また、ECOPデザインをもつ両面加工尖頭器の製作は、最終氷期最盛期(LGM、約29,000-18,000年前)もしくはそれ以降に、北東アジア太平洋岸において最も早い段階に出現します。ECOPデザインの両面加工有茎尖頭器、石刃素材の二次加工石器、および大型両面石器の組み合わせは、約20,000年前のPSHK半島南部地域(現在の北海道)から多数出土しており、この地域との深い関連性を示しています。
LGM期には、全球的な海面低下によって海水準が現在より100m以上低下しており、現在の千島列島からアリューシャン列島は陸域面積が拡大してより大きな島々となり、PSHK半島南端(北海道)からベリンジア(現在のアラスカ南部)の南東縁に伸びていました。約18,000年前に年代が遡るベリンジアの考古遺跡がいまだに発見されないこと、そして北海道にはAUPと共通する、ほぼ同時期もしくはそれ以前の時期に遡る石器群が存在することを踏まえると、PSHK地域は、最初のアメリカ人(First Americans)の祖先集団が形成された有力な候補地と推論できます。
5.研究の意義と波及効果
本研究では、アメリカ上部旧石器(AUP)集団はPSHK半島からもたらされたと考えることが最も合理的な仮説であると主張しました。このことは、外洋での航海に適応した集団が、PSHK半島から約20,000年前、あるいはそれ以前に、環太平洋沿岸ルート(circum-Pacific coastal route)を経由してアメリカ大陸に到達した可能性が高いと指摘したケルプ・ハイウェイ仮説と矛盾しません。日本列島では、約38,000〜30,000年前の琉球列島および本州において外洋航海の間接的証拠が得られています。PSHK半島に存在した(当時の本州とは別の)AUP基層集団は、LGM期の北太平洋の厳しい環境の中で、複数のレフュージア(refugia)を転々としながら移動した可能性があります。
今後は、考古学的証拠に乏しかったベリンジア滞留説の代替案として、PSHK滞留説がより妥当性が高い仮説として、様々な点から検証されてゆくことになります。
最初のアメリカ人は古サハリン北海道千島(PSHK)半島が 起源だった:ベリンジア滞留説からPSHK滞留説へ
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