人生初のジュニア向け小説を書くことになり、担当編集者さんから「ヒロインはトマト農家で」とリクエストをいただきました。
さて、そこからどうしようか。
頭の引き出しを開けるときが来た…。
公募歴30年超の私は、数々の落選作や書き終えられなかった作品を生み出してきました。
しかし、それらは決して無駄になったわけではなく、ずっと頭の引き出しの中に存在してまして、たとえ一行でも一エピソードでも、デビュー後の作品に活用しています。
引き出しの中に、あるキャラがいました。
15年くらい前、とあるライトノベル賞に応募するときに作りだした女の子。
名前は「全米」。読みは「あまた まい」で、彼女が笑ったり泣いたりすれば「全米が泣いた」「全米が笑った」というキャッチコピーが使える、という特異能力キャラなのです。
と、そこまで考えただけで終わっていた作品でした。
そうだ、この子だ。
とりあえず、こういう設定のキャラで…と担当さんに打診してみたところ、OKの返事が。
実に15年のロングパス!
めでたく引き出しから全米ちゃんを引っ張りだせたものの、そのままでは登場させられません。
現代に合わせ、また、ジュニア向け作品のヒロインとして再構築していかねば。
まずは年齢。
15年前は17歳の設定でしたが、とりあえず小学6年生に下げました。
が、しかし。
私は青春モノが得意なのですが、もっぱら高校生ばかり書いてきました。
小学生を描けるだろうか。
と悩んでいたら、担当さんが「中学1年生でもOKですよ」。
中学生なら大丈夫。よし、ヒロインは決まり。
次に、ほかのキャラ。
マイのお父さんが「全豪(あまた ごう)」、お母さんが「全英(あまた さち)」なのは15年前に設定していたから、両親も引き出しから出てきてもらおう。
それと、ギャグ系のキャラが欲しい。
様々な児童書を読んでみたら、「おばあちゃん」キャラが割と出てきて面白かったっけ。
そうだ、マイのおばあちゃんはどうだろう。名前は「全米(あまた よね)」で。初代の全米(ぜんべい)という設定にして、亡くなった後に孫が引き継いだことにしよう。
でも亡くなっちゃったら登場できない…そうか、オバケとなって孫を見守っているんだ。
そこで、はたと気づきました。
マイのおばあちゃんだと、私くらいの年齢になってしまう。
もう一世代上にして、ひいおばあちゃんにしよう。
さて、すると主役はどうしよう。
主人公には悩み苦しみ、そして最後には成長してほしい。それが青春というもの。
そうだ、漫画家志望の男子にしよう。
全米の家に下宿して、彼女の評価を得るべく、日々修行していく成長物語!
そこまで決まると早いもので、さくさくと書き進めることができました。
そして、今回は私の作品としては初めての「挿絵」入り。
イラストレーターはMATSUDA98さんで、かなり早い段階で「キャラ絵一覧」をいただけ、パソコンの後ろの壁に貼りました。
眺めていると、頭の中で彼らが動き回る喜びを感じながら書くことができたのです。
そんなわけで、「全米(あまた・まい)が泣いた」(JTBパブリッシング)は現在発売中。お近くの書店で、お手に取っていただけると大変嬉しいです。

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