「生活困窮者自立支援制度」の開始から10年になる。県内で多くの相談が寄せられる一方、長期的な生活再建の取り組みにつながったケースは十分とはいえない。行政や支援者は、継続的な伴走型サポートの実現を粘り強く目指してほしい。
制度は2015年度、生活保護に至る前の立て直しを支援する趣旨で始まった。
県によると統計が残る18年度から24年度、各市町などの窓口への新規相談は約3万5千件で、60代以上が約26%、50、40代がそれぞれ20%強。高齢独居やひとり親、ワーキングプアなどの境遇が想定され、内容は収入や債務、就労、住まいなど多岐にわたる。
うち支援プランを作成したのは約15%で、国が目安に掲げる50%とは大きなギャップがある。就労支援、実際の就労となると、ハードルはさらに高い。相談にたどり着いていない人も多いだろう。支援や生活再建の難しさに目を向けることが必要だ。
長く困窮状態に置かれた人は、閉じこもりがちになる。例えば、支払いがままならないなど困難が重なれば、無力感に陥りSOSを発する力もうせていく。当面しのげる分の食べ物を求めるだけで継続的な支援に消極的といったケースも後を絶たない。
行政や支援者の苦労やジレンマは計り知れない。しかし当事者の「自己責任論」では解決しない。さまざまな糸口から積極的に手を差し伸べるアウトリーチ支援を根気よく推し進めたい。
自ら声を上げない人をどう掘り起こすかも課題である。県内では配食サービス事業者や賃貸住宅を扱う不動産事業者に、「気になる人」の情報提供協力を依頼する例がある。多くのチャンネルを確保することが重要だ。支援者の人材確保、スキルアップも不断に図る必要がある。
「重層的支援体制整備事業」が21年度に導入され、県内市町でも取り組みが広がっている。対象を健常者、障害者などの属性で限定せず全世代とし、「困り事」を丸ごとカバーする理念である。困窮者にとっても、より柔軟な支援の仕組みが加わった。関係機関には一層緊密な連携が求められている。
物価高などで厳しい状況は続いている。行政、支援者には、一段と広い視野を持ってほしい。困窮者自立支援制度との相乗効果を期待したい。
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