国内で初めて開催された聴覚障害者の国際スポーツ大会「東京2025デフリンピック」が閉幕した。銀メダルを獲得したサッカー女子をはじめ、県勢の活躍に大勢の県民が拍手を送ったことだろう。

 聴覚障害を身近に感じられるようになったことを入り口に、県や市町には今後、具体的な支援策を講じることを望む。それが大会の大きなレガシーになるはずだ。

 県内で手話の普及や理解促進を目的とした「手話言語条例」を制定しているのは、県内25市町のうち10月末時点で8市町。検討の動きは他の市町にもあるが、明確に制定を予定する市町を含めても10市町にとどまるのが現状だ。

 条例は手話を一つの言語と位置付け、普及や使いやすい環境整備に関する自治体の責務、住民・事業者の役割を定めたいわゆる「啓発条例」だ。対応の場となる行政の窓口に目を移しても、県の認定手話通訳者を配置しているのは10月末時点で7市町。そのうち常設の窓口設置は5市にとどまる。厚生労働省の22年度調査によると、当時本県で手話通訳者を窓口に設置していたのは6市町で、都道府県別にみると39番目に低い割合だった。

 鹿沼市は県の認定手話通訳者でもある障害者指導員を雇用し、その都度対応する態勢を整えている。多くの市町では手話通訳者がいなくても、手話を一部使える職員が対応したり、筆談やタブレット端末を活用したりしている。

 それでも手話通訳対応できる窓口が定期的に開かれている方が、当事者にとって相談しやすいに違いない。今年6月、自治体に手話普及の環境整備を義務付ける手話施策推進法が施行されており、整備は急務と言える。

 3年前の22年10月に開かれた「いちご一会とちぎ大会」(全国障害者スポーツ大会)では、開催を控えた同年4月、健常者と全ての障害者の情報格差解消や共生社会実現を目的とした「県障害者コミュニケーション条例」が施行された。ビッグイベントの開催は啓発を進める原動力になっている。

 来月3日には、障害や障害者への理解を深め、社会参加を促進する「障害者週間」が始まる。デフリンピックの感動が覚めやらぬ好機を生かし、他のさまざまな障害についても理解を深め、具体的支援について考えたい。