紙やプラスチック製の従来の健康保険証の有効期限が今月1日で切れ、2日からマイナンバーカードに保険証機能を持たせた「マイナ保険証」を原則利用する制度に移行された。10月末時点で県内の医療機関や薬局でマイナ保険証が利用された割合は41・13%にとどまり、全国平均も37・14%と低迷している。

 現場の混乱を避けるため国は、来年3月末まではこれまでの保険証でも保険診療を受けられるようにした。マイナ保険証の利用率の低さは、メリットの感じにくさに加え、プライバシー保護の観点で不信感が拭えないことなどが背景にあるとされる。

 現状では国民の十分な理解が得られたとは言えまい。性急なデジタル化を推し進めるより、国は従来タイプとの併用も認めるように施策を転換すべきだ。

 マイナンバーカードの保有者は今月3日時点で全人口の80・3%に当たる約1億3万人。このうちマイナ保険証の登録者は10月末時点でカード保有者の88%に当たる8730万人に上っている。

 しかしマイナ保険証の利用率は、都道府県別でトップの福井県でさえ54・71%と5割強に過ぎない。本県も全国と同様、6割程度が従来の保険証などを利用している。

 マイナ保険証は、医師が患者の過去の診療情報を把握することができ、薬の過剰投与を防ぐなどの利点があるという。適切な医療の提供には欠かせないが、周知が不十分な点は否めないだろう。

 さらに医療や年金、税などさまざまな個人情報がひも付けられたカードを持ち歩く不安感や、過去に別人の情報が結び付けられるトラブルが相次いだことも利用率の低下につながっているとされる。

 そもそも受診する際、マイナ保険証を端末に入れて暗証番号や顔認証で照合する手続きを嫌がる人もいる。デジタルが苦手な高齢者の間で利用が進まない一因にもなっている。

 人口減少・少子高齢化の日本では、行政もデジタル化を進めなければサービスの質と量を維持できない。マイナカード利用拡大の方向自体は間違っていない。ただ不安な人や、ついていけない弱者を置き去りにすることは許されない。選択肢を残すという意味からも、従来の保険証も継続して使える「併存」とするのが最善の策に違いない。