能力などに合った刑務作業が課せられる受刑者。作業中は黙々と手を動かしている=2015年2月、栃木刑務所(画像は一部加工しています)

 

 国内最大の女子刑務所「栃木刑務所」(栃木市惣社町)が2028年4月に廃止される見通しとなった。今から10年前の2015年、下野新聞は記者が塀の中を取材したルポ企画「更正へ…償いの道 栃木・女子刑務所の現状」(全6回)を報道しました。受刑者の高齢化や国際化、再犯の増加など多様化する問題に迫った記事を通じて、栃木刑務所の役割を振り返ります。

 女子刑務所で国内最大、関東唯一の栃木刑務所(栃木市惣社町)。高齢化、国際化が進み、塀の中は現代社会の問題を映し出す“縮図”だ。社会復帰に向けて刑務作業や矯正指導を受ける受刑者。厳しい寒さが続いた1~2月、刑務所に足を運んだ。

  受刑者の1日は午前6時半に始まる。

 「てんけーん」-。受刑者を確認する刑務官の声が寮内に響く。刑務官は圧倒的に女性が多い。20代の若手が祖母に近い年配の受刑者に注意する。「ちゃんと返事して」

 受刑者が朝食を作り、各部屋に運ぶ。体調によって主食の量が変わり、減塩食もあるという。

 午前7時すぎから10分ほどで朝食を終えると、列をなして工場に向かう。色あせたピンクの作業着に耳当て、フリース姿。いてつく寒さに耐えきれず、手をもみながら、足早に歩く外国人がいた。

 列の後ろには、手押し車に手を添えて、ゆっくりと進む高齢者。「段差あるよ」「気を付けて歩いてね」。

 いつもは厳しい刑務官が声を掛ける光景は、まるで福祉施設にいるようだ。処遇担当者が打ち明けた。「介護資格を持つ受刑者や、刑務官が手を貸すこともある。支え合わないと、やっていけない」

 刑務所内では、社会復帰を促す刑務作業が課せられている。内容は能力や体力によって決まり、高い技術が必要な洋裁のほか、紙細工、やすり掛けといった軽作業を行う10の工場がある。施設内の清掃や洗濯、炊事を担う受刑者もいる。

 オリジナルのエプロンなどを手掛ける工場に入った。ミシンの音や刑務官の声が響き渡るだけで、受刑者は黙々と作業をする。処遇部門の責任者は「私語は厳禁。作業や寮での生活を通じて、健全なものの考え方を身に付けさせる」と説明した。

 工場内では、守るべきルールを日本語や英語、ローマ字などで掲示している。

 昼食を挟んで午後4時半まで作業を続け、寮の自室に戻る。施設の増設に伴い、過剰収容は改善されつつある。しかし、集団生活に適さない高齢者や精神疾患者に単独室が割り当てられるため、6人部屋に7、8人が身を寄せ合うケースもある。

 夕食後から消灯までは余暇の時間だ。洗濯したり、他の受刑者との会話やテレビを眺めて過ごす。

 消灯5分前にオルゴール音が流れ、室内や廊下の電気が次々と消される。午後9時。刑務所内は静寂に包まれた。だが、トイレや洗面所は明かりがついたまま。「暗闇の中に受刑者が隠れる恐れがある。死角ができないようにしている」という。

 刑務官が革靴からスニーカーに履き替えた。足音や鍵の開け閉め音に注意しながら、朝までの巡回が続いた。

(記事は2015年3月16日掲載)