県勢として初のJリーグタイトルとなるJ3優勝とJ2昇格を成し遂げた栃木シティ。今矢直城(いまやなおき)監督が掲げてきた攻守に主導権を握る「アタッキングフットボール」で参入1年目にしてリーグを席巻した。今季の歩みを振り返りながら強さの秘密をひもとくとともに、クラブの今後の方向性などを探る。

 決勝点が決まった瞬間、栃木シティの本拠地・シティフットボールステーション(CFS)は文字通り揺れていた。

 10月25日の第33節首位八戸戦。勝ち点5差で追う2位のシティは勝たなければ優勝が厳しくなる。だが試合はスコアレスのまま後半追加タイムに突入した。

後半追加タイム、シュートを決め、喜ぶ栃木シティのFWバスケス=10月25日の八戸戦から、CFS、磯真奈美撮影
後半追加タイム、シュートを決め、喜ぶ栃木シティのFWバスケス=10月25日の八戸戦から、CFS、磯真奈美撮影

 試合終了間際、左クロスに合わせたFWバスケス・バイロンが左足を振り抜く。抑えの効いたシュートがネットに突き刺さった。直接対決を制して勝ち点差を2に縮めたチームは、ここから一気にJ3の頂点まで駆け上がった。

 クラブは今季、日本フットボールリーグ(JFL)を勝ち抜いた選手をベースにしながら、それを上回る能力を持った新戦力を獲得する戦略を描いていた。

 開幕前にDFマテイ・ヨニッチ、シーズン途中の3月にはFWピーター・ウタカといったJ1での経験も豊富な実力者を獲得。そして、優勝に向けた最後のピースになったのが8月にJ1町田から期限付き移籍で加入したバスケスだった。

ドリブルで攻める栃木シティのFWバスケス=10月25日の八戸戦から、CFS、磯真奈美撮影
ドリブルで攻める栃木シティのFWバスケス=10月25日の八戸戦から、CFS、磯真奈美撮影

 話題性のある選手を次々に獲得したことから資金力があると思われるが、大栗崇司(おおくりたかし)社長は「(他チームと比較して)トップチームにかけている人件費は特別多いということはない」と否定する。

 クラブは今矢直城(いまやなおき)監督が志向する戦術に合わせ、補強においても明確な基準を設けている。各ポジションごとに適合する選手像を細かく定義し「はまりそうな選手をピンポイントで取っていく」(大栗社長)という方針だ。

 新戦力の加入でチーム内の競争は激しくなった。FW田中(たなか)パウロ淳一(じゅんいち)は「僕たちスタメンが結果を出しているが、紅白戦や練習ではいつもボコボコにやられる。インパクトメンバー(控え選手)がいたからこそ、気を引き締めて試合を迎えることができた」と明かした。

 試合に出場できない状況でも、腐る選手は一人もいなかった。シーズンを通して常に一体感があり、途中出場やスタメンに抜てきされた選手がしっかり結果を残した。

 ゲームキャプテンを務めたGK相澤(あいざわ)ピーターコアミは「今矢さんがチームを船に例えて『一緒に乗っている選手を決して見捨てない』と言っていた」と説明する。「だから選手もやめない。お互いをリスペクトして練習できている。やっぱりそこが一番大きい」と強調した。

 J3参入1年目で成し遂げた栄誉は、フロントを含めたクラブの総合力で勝ち取ったものだった。