不安症な自身の内面世界を映画にしてきたアリ・アスター監督が、長編4作目にして、かじを切った。「エディントンへようこそ」は外を向いた、まるで記録映画だ。
現実世界では2020年5月下旬、新型コロナウイルスによる未曽有のパンデミックによるストレスや陰謀論のまん延に加え、米国ではアフリカ系米国人男性が白人警察官に膝で首を押さえつけられて死亡する事件が起きた。社会は騒然、ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大事だ)運動が起こり、SNS(交流サイト)は荒れに荒れた。監督は頭がおかしくなりそうだったという。その時を映画にした。
だから、今作も源に不安や恐怖があるが、過去作のように「個人的な」ではない。映し出す世界は、出口なく悪化の一途をたどるホラーのようだが、現実と変わらない。監督は、大きな鏡を置いて見せただけなのかもしれない。
今作の舞台は米南西部ニューメキシコ州、荒野にポツンとある小さな町エディントン。コロナ禍による都市封鎖で、住民は不安と不満が募る日々。町の保守的な保安官ジョー・クロス(ホアキン・フェニックス)は、ヒスパニックの野心家でIT企業誘致に積極的な市長テッド・ガルシア(ペドロ・パスカル)と「マスクは必要ない」「マスクをしろ」に始まり何かにつけて対立する。しかもジョーの愛妻ルイーズ(エマ・ストーン)は、市長の元恋人だから、根が深い。
ルイーズは心身の調子を崩して引きこもり、カルト集団リーダー(オースティン・バトラー)の配信動画にハマり、陰謀論につかっている。
孤立するジョーは突然「俺が市長になる!」と宣言。保安官ジョー対市長テッドの選挙戦が幕を開ける。SNSでフェイク情報、憎しみ、誹謗(ひぼう)中傷が燃えさかる。住民からは人種差別反対デモがわき起こり、保安官の言うことになど耳を貸さない。それぞれ自分が信じていることこそが正しく、交わらない。
そして話はグイッとダークに加速する。保安官ジョーが転がり落ちていく先に、何が待っているのか…。
ギュッとまとめた解説動画をYouTube「うるおうリコメンド」にて、よかったらご覧ください。
▼動画URL
https://youtu.be/NtnEuabYums
▼映画「エディントンへようこそ」2025年12月12日(金)全国公開
・監督・脚本:アリ・アスター
・出演:ホアキン・フェニックス、ペドロ・パスカル、エマ・ストーン、オースティン・バトラー、ルーク・グライムス、ディードル・オコンネル、マイケル・ウォード
・配給:ハピネットファントム・スタジオ
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