桜井政博

 『まんがで知る人と仕事 桜井政博 ゲームで世界をもっと楽しく』

 桜井政博  『まんがで知る人と仕事 桜井政博 ゲームで世界をもっと楽しく』

 『まんがで知る人と仕事 桜井政博 ゲームで世界をもっと楽しく』(イースト・プレス刊)は、「星のカービィ」や「大乱闘スマッシュブラザーズ」などを生み出したゲームクリエーター桜井政博の仕事を分かりやすく紹介した、異色の学習漫画だ。

 桜井にとってゲームとは、芸術でありエンタメである「複雑な作品」。ちょっとした表現の違いで、コントローラーのボタンを押す感触が変わったように思えることもある。そんなゲームの持つ謎に取りつかれた桜井が、制作の裏側と自身のユニークな仕事論を語る。(取材・文 共同通信=高坂真喜子)

【さくらい・まさひろ】1970年東京都生まれ。ハル研究所で「星のカービィ」など名作ゲームを生み出す。2003年に独立し、有限会社ソラを設立。2022年からはユーチューブチャンネル「桜井政博のゲーム作るには」でゲーム制作のノウハウを伝え、世界中のゲームファンから支持を受けた。

(1)ゲームにささげた人生

▼記者 桜井さんの人生を振り返るような学習漫画が発売されました。

●桜井 基本的に私は自分のゲームを売るため、楽しいものにするために頑張ってきたつもりで、自分のパーソナリティーを売ろうという気はあまりありませんでした。さらけ出すのも個人的には大変恥ずかしいので、この話を受けた時に断るつもりでしたが、編集者さんがしっかりと成果を積み上げてくれて、いつの間にか本を作ることになっていました。

 結果として、自分のこれまでの仕事を広く捉えられたのはありがたく、またゲーム業界にとっても良かったと思います。これから、こういう学習漫画も、堅苦しいものではなく、例えばアーティストやユーチューバーにアプローチすることが増えていくのではないかな。そのきっかけの一つになれたのは良かったです。

▼記者 改めて自分の人生を振り返ってみてどうですか?

●桜井 ほとんどゲームとゲーム制作にささげた人生と言っても差し支えはないですが、自分は幸せだと思っています。

 好きなものを仕事にできて、それでちゃんと成果を出して、人から評価を得られた。もちろん厳しいことも、どうしようもないこともあるし、体や心を壊すこともありますが、それを差し引いても、ものすごく良い人生なのではないかなと考えています。

(2)技術は日進月歩

▼記者 「星のカービィ」がヒットして、人生は変わりましたか?

●桜井 そんなことはないです。ゲームが売れていても売れていなくても、多分変わりなくゲーム制作に打ち込んでいたと思います。それと、すごくヒットをしているとか、ヒットメーカーだという自覚はほぼないです。

 他のゲームを見ると「すごい」と思います。自分や自分のチームではできないことをしている。どうしてこんなにすごいものを作ることができるんだろうと感じることの繰り返しで、ずっと何かに挑み続けなければいけないというような感覚です。

 実際、ゲームの制作は他のメディアと違って、技術が日進月歩です。20年前、30年前のゲームを今のものを比べると、すごく違う。進化し続けるものなので、何か成果を出して全体的に振り返るというようなことはほぼないですね。

▼記者 桜井さんはユーチューブチャンネル「桜井政博のゲーム作るには」で、たくさんゲーム作りのノウハウを伝えています。競争の激しい業界の中で、自らのノウハウを伝えているのはなぜですか?

●桜井 最終的な目標として、ゲームなどの娯楽メディアの底上げが少しでもできればいいと考えています。世界をより楽しく、面白く、質を高くするためには、いろいろなプロフェッショナルがより良い仕事をすることが大事です。プロフェッショナル、というよりスペシャリストが、世界を作っていくものだと思っています。

 自分が持っているゲームのノウハウなんて、自分では大したことないと感じますが、「ありがたい」とか、「目からうろこ」と言ってくれる人が多いようです。なので、自分が持っているノウハウみたいなものを他の人に伝えることで、少しでもスペシャリストたちの底上げになれば、という気持ちでやっています。もちろん若い人にも限らないし、ゲーム制作にも限らない。そういう観点でやっています。

(3)誰かの「きっかけ」に

▼記者 今回は子ども向けの学習漫画です。

●桜井 学習漫画は若い世代がターゲットでしょうけれども、社会人が見ても、もちろん問題ないです。自分の制作物はあまり年齢的なカテゴライズを行いません。例えば「カービィ」を子供向けと言ったことは一度もないんです。どちらかというと初心者向けというか、ゲームに慣れていない人がやればいいのであって、大人も子供も腕に応じて遊べばよいと思います。学習漫画も同じようなところはあると考えています。

 あと、誰かの「きっかけ」になるといいなと。

 幼少期に触れたものは、そんなに仰々しいものではないにもかかわらず、すごく覚えていることがある。心の中に残っていても、いなくても、ただ単純に買い与えられたもの、手に触れるきっかけがあったもの、それが将来の考え方とか、あるいは好きなものに影響を与えることは多いと思います。何がきっかけになるか分からない。

 今まで、こういう風に読みやすく構成されたゲーム作りの裏側を見せる本が出たことはあまりなかったので、なんとなくでも触れていただければありがたいです。

▼記者 これをきっかけにゲームを作りたいと思うお子さんが出てくるかもしれないですね。

●桜井 そうですね。でも、正直、そこで自分が主役である必要もあんまりないかなと思っています。あんまり目立ちたくないんですよ。

(4)一生懸命やれば楽しむすべはある

▼記者 とても忙しいお仕事だと思いますが、長い期間続けるこつはあるんでしょうか?

●桜井 何でも一生懸命やることじゃないでしょうか。はたから見るとゲーム制作なんて楽しいに決まっている、と見えるかもしれません。でも、厳しいこともつらいことも多いです。ずっとずっと、少しずつ石を積み重ねるような仕事は、やっぱりきつい。

 だけど、とにかく一生懸命やってれば何だって楽しむすべはある。いろんな仕事の中に多くの場合は、何かしら楽しみがあるのではないでしょうか。

▼記者 楽しく仕事をする上で心がけていることはありますか。

●桜井 ゲーム作りに限って言えば、頑張れば物ができていくというのは非常に良いですね。ただ、チームワークになると、そうではなくなっていくもどかしさもあります。例えばドット絵を描く時に、一人で描いていれば必ず仕上がります。しかしチームで運営していて、このゲームに適切なドット絵はこうだからこうしないといけない、という話をし続けるのはなかなか大変です。

 成果が上がる仕事、上がらない仕事といろいろありますが、成果物に対する達成感みたいなものを何らかの形で持ち続けられないと仕事はつらいでしょうね。

 大型のゲーム作りではそれが難しくなってきているのを感じます。スタッフはすごく人数が増えて何百人もいます。1人が作ったものと、数人で作るのとは充足感が違いますよね。やるべきことも変わってきます。

▼記者 大きなプロジェクトを成功に導くために何か工夫されていること、心がけていることはありますか?

●桜井 自分が思っていることをとにかく分かりやすくすることは、何においても有効だと思いますね。

 私のユーチューブをご覧になれば想像できると思うんですが、いろいろなところをはしょっていたり、ストレートに話をしたりしています。そこに感情はほとんど乗らない。無駄をそいで伝えたいことを渡す。これはいろいろな場面で非常に有効かと思います。

▼記者 数多くのゲームをされていらっしゃるということですが、たくさんのインプットが面白いゲーム作りにつながるのでしょうか。

●桜井 いろんな人にお勧めしようとは思わないですよね。人によってやり方、向いている方法があると思います。

 自分はわりと分析を進める方だから、いろいろな作品を見て学ぶというやり方は合っていますが、ゲーム以外のことからヒントを得られる方も少なくないと思います。

 それぞれの人の得意不得意があると思うので、私がやってるからゲームをたくさんやっていればいいのかっていうと、全然そんなことはないとはお伝えしておきたい。それぞれの人に向いたやり方があるから、それを見つけるのが何より大事だと。

(5)「駆け引き」だけではない魅力

▼記者 ゲームの面白さは、そもそもどこにあるのでしょうか?

●桜井 一概には言えないですね。一応、自分のユーチューブでは、ゲームらしい面白さのことを「ゲーム性」と称してまとめていますが、必ずしもそれが正解ではないと思っています。

 あるゲームの面白さは分かるけれども、その正体は何?ということに対して、あえて「ゲーム性」という言葉を定義して、それは「駆け引き」であると仮定して、そこから話を進めました。

 だけれども、ゲームの魅力や面白さというのは決して「駆け引き」だけではないです。いろいろな魅力があって構成されている、非常に複雑な作品です。あるところでは芸術だし、あるところではエンタメだし、いろいろな姿を見せるものだと思っているので、単純に面白さをくくるのは、問題があるだろうとは思うんですよね。

▼記者 ゲーム作りの面白さをどの辺に感じていらっしゃいますか?

●桜井 頑張ったらその分、ものができることだと思っています。操作して楽しいというのはそもそも何だということを考えるだけでも、非常に深いですよね。例えばボタンを押す時に、物理的なボタンには全く重みはないはずなのに、ゲームの表現によって、その重さが明らかに違うように感じられる瞬間がある。そんな“ゲームの謎”みたいなものに今も興味があるし、まだまだ極められてもいないと感じていて、研究する必要があると思っています。

▼記者 桜井さん個人としてはこれからどんなゲームを作ってみたいですか?

●桜井 基本的にありません。私は依頼に応じてゲームを考え、作るので、自分から作りたいとはあまり思わないんですよね。ゲームは遊んでいるのが一番楽しいです。もし依頼がないとゲームを作らないかも、とさえ思っています。

 もちろん興味がないわけでは決してないし、冷めているわけでも、一生懸命作らないわけでもないですが、わりかしドライに見ています。需要があってそれを頑張って満たすというようなものに動機は近いと思います。基本的にきっかけというのは、自分よりも人がどう思うかなんですよね。

(6)頭の別の部分で考えを回しておく

▼記者 ゲーム以外の趣味はありますか?

●桜井 ドライブや散歩が好きです。ドライブは遠いところまで行くこともありますし、散歩も余裕があれば2万歩とか。

 ただ、最近愛猫の「ふくらし」の調子がちょっと悪くて、遠いところまで旅行はできにくいですね。

▼記者 アイデアを思い浮かぶきっかけは。

●桜井 基本的には頑張って考え出すしかないと思っています。ゲーム制作の依頼がある場合、何らかのテーマがあることになります。例えば前作があって、それを今楽しめるものにするにはどうすればいいのか、とか。それをその場で頑張って考える。いつもアイデアを書くとか、メモしたりはしていないです。例えば、何かの課題を抱えたままドライブに行って、一周回って帰ってきたら、だいたい答えができていたとか、そういうことは多いですね。

 何かしている最中に頭の別の部分で考えを回しておくということは、まあまあ有効だと思っています。

▼記者 今作を読まれて、桜井さんが気に入った部分や、お薦めの部分を教えてください。

●桜井 (仕事場などの再現性に)謎のクオリティーの高さがあるんですよね。伝えていないのに、漫画に登場する車の車種が実際に運転した車と同じになっています。その他にも、ゲーム棚が同じとか、表紙の愛猫「ふくらし」の様子も、実際と非常によく似ています。仕事机もそうです。

 いろいろなところで少しずつ出ていた情報を細かく拾っていただいたのでしょう。実際のものと同じようなディテールの細かさに驚きましたね。