昨年1月29日に発売になった「オリオンは静かに詠う」(小学館)が、このたび重版になりました。前回のエッセイでも書かせていただきましたが、中学受験などで使われているのも一因のようです。
この作品はプロット(登場人物とあらすじ)を何度書き直しても担当編集者さんからOKが出ずに苦しみ、やっと通ったのが12稿目でした。
その「合格」メールが編集者さんから来たのは、実は事故処理の最中。私が車を運転していたら、追突されたのです。幸いなことにケガ人はいなかったのですが、10年近く乗った車が廃車になりました。
レッカーされていく愛車を泣きながら見送っていたら、夫が「プロットが通った日にぶつけられるなんて、きっと本が『当たる』ってことだよ」と慰めてくれたことを思い出します。その夫も、もういません。昨年(2025年)12月に亡くなりました。がんでした。
小説家を目指していた私と、トマト農家の夫が結婚したのは2019年の元日。その前年の夏にお見合いし、「お互いにもう年だし、看取る相手を見つけたということで」と結婚を決めたのでした。私が47歳、夫が50歳という超晩婚でした。
「新しい元号になる年の元日に結婚だなんて、結婚何年目かわかりやすくていいね」なんて笑いながら婚姻届を出しに行ったのですが、まさか7年で終わるとは思いませんでした。
夫は、お見合いした時点で一人暮らしでした。夫の両親は早くにがんで亡くなっていたのです。ということは、夫もがんになるリスクはどうしても高いわけでして、「人間ドックを受けて」と何度も何度も私が注意したのですが、肝臓などに持病を抱えていた夫は「通院しているんだから、わざわざ検査を受ける必要はない」と受け入れませんでした。
ちなみに私は健康オタクな側面もありまして、30歳になったときから年に一回欠かさず人間ドックを受けていますし、毎日ジョギングしています。
そんな夫から「肝臓のエコーをやったら、なんか気になるところがあるから来月MRI検査しましょうと言われた」と連絡が来たのは2024年の5月。検査の結果、「胃がんだって。家族同伴の上で医者から説明があるから、明日一緒に来るようにって」とLINEがきました。
私の家族にはがん患者がおらず(母方祖父は私が幼いころにすい臓がんで亡くなっていますが)、胃がん、と言われて何もイメージできず、頭の中は真っ白に。
そして翌日、「旦那さんの胃がんはステージⅢ。手術はできますが、胃の三分の二を切除する必要があります」と担当医師から説明を受けたのでした。
2か月後の8月に手術ができそうで、それは早い方だとのこと。「運がいいから、きっと大丈夫」と、夫は手術に臨み、無事終了。手術から十日で退院できて、私も一安心でした。
あとは通院して抗がん剤を受けることになるのですが、問題は仕事をどうするか。
夫が栽培しているのはハウス栽培の「冬春トマト」で、夏に植えて秋から翌春にかけて収穫するのです。
トマト一筋で生きてきた夫は「今シーズンは療養に専念する」と、仕事を休むことを決意しました。
しかし、冬の足音が聞こえてきたころ、肝臓に転移してしまったのです。

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