映画『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』(1月30日公開)で、前作『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』に引き続き音楽を担当した澤野弘之。今作もスタイリッシュな音楽の数々が作品の魅力を増している。多くの作品を手がける上で、澤野が追求する「かっこよさ」とは―。(取材・文 共同通信=高坂真喜子)
【さわの・ひろゆき】
作詞・作曲・編曲家。音楽プロデューサー。『進撃の巨人』、『青の祓魔師』などの人気アニメシリーズの音楽を担当。ガンダムシリーズでは前作の『閃光のハサウェイ』、『機動戦士ガンダムNT』、『機動戦士ガンダムUC』を手がける。2014年からはボーカル楽曲に重点を置いたプロジェクト「SawanoHiroyuki[nZk]」(サワノヒロユキヌジーク)に取り組む。またプロデュースワークとしてはSennaRin(センナリン)とNAQT VANE(ナクトベイン)を手がける。
【機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女】
『機動戦士ガンダム』の生みの親である富野由悠季監督の書き下ろし小説を、全3部作で映画化する『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』の第2章。2021年公開の第1章では、リアリスティックな戦闘演出と、キャラクターたちの繊細な会話劇や心理描写が話題を呼んだ。
(1)シンセサイザーやデジタルの音色で
▼記者 『閃光のハサウェイ』の第1部から音楽を担当されています。今作で意識的に変えてみたことはありますか。
●澤野 第2章、第3章は、第1章で作った曲をベースにしてブラッシュアップしたり、アレンジを変えたりする形になるかと思っていました。前作から5年たっていますが、シンセサイザーの音色やサウンド、自分が影響を受けているサウンドをちりばめて、より作品の雰囲気が出せればいいなと。
▼記者 音色面に対して特にこだわったところは。
●澤野 自分なりに第1章とは違う音色にしつつ、宇宙やSFというテーマは共通して意識しないといけないと感じてはいたので、シンセサイザーやデジタルな音をどうやってちりばめようかと考えていました。
▼記者 使用する楽器や演奏形態でこだわったところはありますか。
●澤野 オーケストラは壮大さを出すために起用しました。宇宙とかSFという部分では、シンセサイザーの音色で、なおかつ広さを感じさせるためにアンビエント感や空間を感じさせるような音色を選ぶことが重要だと思いながら取り組みました。
▼記者 重く響くような曲もありました。
●澤野 作品の世界観をくんだ上で、暗さや悲しさも含めていくことが、より作品の持っているテーマを深めるのではと思って作りました。
(2)海外の映画のように
▼記者 作る上で苦労したことはありますか。
●澤野 苦労は、どの作品においてもそこまでないですね。
今回の作品の注目ポイントとして、挿入歌が流れるシーンが2カ所あります。ヒロインのギギの日常のシーンと、主人公ハサウェイとハサウェイがリーダーを務める「マフティー」の仲間であるケリア・デースの回想シーンです。ギギのシーンにはポップなサウンド、回想シーンにはバラードみたいなものを自分なりの解釈で作りました。映像と音楽だけの場面なので、観客の皆さんがより感情移入できて、心に引っかかるように、と意識しました。
▼記者 ギギのシーンで流れる挿入歌は、ポップな感じを意識したのですね。
●澤野 村瀬修功監督が、海外の映画でキャリアウーマンが仕事している時や日常生活を送っている時に後ろで流れている洋楽のポップのようなものを、とおっしゃったので、そこを意識して作ろうと。リズムが跳ねた感じや、最近の洋楽から影響を受けたサウンドをぶつけようと考えました。
ギギというキャラクターはミステリアスで、いろいろな感情を持っています。ただ明るいよりは少し切なさも感じるようなメロディーの方がいいかなと作っていきました。
歌詞は、歌手のSennaRinが両曲とも書いてくれました。彼女なりに作品を見た上での解釈で、ギギの心情も含めて書いてくれているので、映像と合わせて、世界が広がる感じになるといいなと思います。
▼記者 挿入歌「ENDROLL」は[Alexandros]の川上洋平さんとSennaRinさんの2人で歌唱します。最初は川上さんから、次はSennaRinさんが、最後は2人で歌います。
●澤野 ハサウェイが主人公なので、男性始まりにした方がいいかなと思いました。でも、ケリアとの話でもあるので、途中から女性のSennaRinが歌い出すと、観客もその瞬間にケリアの気持ちに寄るかなと。音楽的にもそう聞こえてくれたらいいなと思って、そういう振り分けにしました。
▼記者 完成していかがですか。
●澤野 2人のアプローチが本当に素晴らしかったです。2人のコントラストや、最終的にはハーモニーするところも、SennaRinと川上さんだからこそできたサウンドだという感じがします。そして素晴らしい映像の回想シーンなので、曲がエモーショナルに展開していく部分を映像と合わせて楽しんでもらえたらと思います。
(3)かっこいい音楽を
▼記者 音楽を作る時、どんなことを心がけているのでしょうか。
●澤野 自分自身が音楽を始めたいと思ったのは、「CHAGE and ASKA」のASKAさんや、小室哲哉さんの影響です。2人の音楽にいろいろな感情を抱きつつ、かっこいいと思ったんですよね。パフォーマンスにしても楽曲にしても。だからこそ自分も音楽はかっこいいものであってほしいという欲求がある。
人にかっこよく聴いてもらえる、届くような音楽を作りたい。バラードにしても、サスペンスの曲でも、どんな曲でも、共通してそう感じてもらえるサウンドにしたいと心がけています。
▼記者 かっこいい音楽とは。
●澤野 聴いた瞬間に単純に「かっこいいな、この曲」「かっこいいな、このアーティスト」って思ってもらえるようなサウンド、メロディー、アレンジ。僕自身、映画の音楽を聴いていて惹かれるものは、ぱっと聴いたときにかっこいいと感じる音です。
▼記者 どんなことが発想のきっかけになりますか。
●澤野 普段、自分が聴いている音楽です。映画音楽ならハリウッドのサントラなどが好きで意識的に聴きますし、歌は海外のポップを聴いています。そうした音楽を常に自分なりに吸収して、刺激を受けて、自分もこういう曲調のものを作りたい、こういうオーケストラのアプローチをしたいというのが、きっかけになっています。
(4)エンターテインメントをより前に
▼記者 ガンダムシリーズでは、『機動戦士ガンダムNT』、『機動戦士ガンダムUC』の音楽も手がけています。
●澤野 『ガンダムUC』の時に、自分としてはアニメ作品の音楽にここからチャレンジしていくきっかけにつなげたいと思って取り組みました。その結果、それを見たアニメのプロデューサーがまた別の作品で声をかけてくれました。『ガンダムUC』ではエンディング曲を作らせてもらう機会もあり、それが今、ボーカル曲を作る活動にもつながっています。『ガンダム』は、自分の音楽活動に影響を与えてくれた作品だと思っています。
▼記者 劇伴を作る上で大切にしていることはありますか。
●澤野 『進撃の巨人』なども含めたエンターテインメント作品にこれまで関わらせていただく機会がありました。そのエンターテインメントをより前に押し出すような音楽、劇伴を作っていきたい。悲しいシーンがより悲しく、激しいシーンはよりスピーディーに感じさせる、そのサウンド感。音楽にはクールな表現もありますが、誇張してなんぼ、と思っているところもあります。泣かせるなら思いっきり泣けるメロディーを書く。盛り上げるなら中途半端に軽い「ドーン」よりは「ドカーン」と感じるリズム、メロディーの立て方とか。大げさにしたことで、観客にやっと伝わるところがあると思うので、出し惜しみしない音楽を作ることを心がけています。
▼記者 今作もさまざまな盛り上がりがあります。
●澤野 もちろん全部をやかましくではなく、ぐっと抑えるところは抑えて。でも盛り上がるところはちゃんと盛り上げてという形で、キャラクターの感情や作品の起伏をうまく表現できたらいいですね。
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