第51回衆院選の期日前投票は2月7日に最終日を迎えた。有権者は何に期待し一票を投じているのか。昨年春に下野新聞社に入社し、初の衆院選取材に当たる記者(23)は4日、幅広い世代の人が集まる小山市の大型ショッピングモール「イオンモール小山」の期日前投票所に終日密着。投票を終えた有権者たちの思いを聞いた。
【09:45】
雲一つない青空が広がった4日。イオンモール小山の事務所に寄り、撮影許可証を受け取り、女性職員に期日前投票所まで案内してもらった。
向かっている途中に女性がつぶやいた。「今回は屋内で投票できるからよかったよね」。聞くと昨年夏の参院選では、駐車場の一角に仮設のプレハブ投票所を設置していた。酷暑の中に待機列ができたり、駐車スペースが圧迫されたりといった問題があったという。今回は施設内にスペースを確保できたため、暖房が効いた快適な環境で投票できるようになった。
そうこう話しているうちに投票所に到着。「できるだけ多くの有権者の声を聞こう」。そう決意し、取材に臨んだ。
【10:00】
投票所が開いた。入り口で並んでいた有権者が一斉に係員の案内に従って中に入っていった。記者は投票を終えた人に話を聞くために出口付近で待機した。
■「政策を実現してくれる人を選んだ」
声をかけ始めて最初に応じてくれたのは大高知子(おおたかともこ)(69)さん。夫と二人暮らしで自宅は近所だという。「買い物ついでに投票できるから、ほんと便利」とほほえむ。
今回の選挙では「政策を実現してくれる人を選んだ」という。大高さんが支持する政党の候補者は小山市がある栃木4区から出馬していないため、「人物本位」で信頼できる候補者を選んだ。比例では応援する政党に投票した。
■「入場券が届いたタイミングで一気に増えた」
スーツ姿の男性から「ご苦労さまです!」と声をかけられた。小山市選挙管理委員会の池澤信行(いけざわのぶゆき)書記長だった。「昨日(3日)あたりから人が増え始めてきました」と教えてくれた。
解散から投開票までが戦後最短となった今回の衆院選。当初は「1月27日公示、2月8日投開票」と「2月3日公示、15日投開票」という二つの案が出ていたが、正確な日程が分からず、職員は振り回された。期日前投票開始までに「投票所入場券」の送付が間に合わない地域もあったという。手ぶらでも投票可能だが、送付が遅れた影響もあってか前回の参院選と比べて序盤の出足は鈍かった。
ただ、3日までには送付がほとんど完了したこともあり、「入場券が届いたタイミングで一気に増えた」と話してくれた。投票には入場券が必須と思い込んでいる市民もかなり多いのだろうと思った。
■「国際秩序が変わってるのだから、日本も対応しないと」
70代の男性に話を聞いた。投票で重視した点として「安全保障」を挙げた。ロシアのウクライナ侵攻、ガザ情勢、アメリカが南米ベネズエラへの大規模攻撃に踏み切り、マドゥロ大統領を拘束するなど、国際社会は様変わりしている。男性は「東アジアも緊張が高まり、国際秩序が変わってきている。日本も対応していかなければならない」と危機感を語った。
【11:00】
■「政治家は遠い存在」
同世代の若者にも話を聞いてみたいと思っていたところ、髪をピンク色に染めた若い女性が訪れた。声をかけると、快く取材に応じてくれた。
美容師をしている吉藤凜(よしふじりん)さん(21)。政治に関心のある母親から「投票に行ったほうがいいよ」と勧められたという。政策はあまり詳しく知らず、「母親に何個か動画を見せられ、『近いのにしな』」と言われて投票先を決めた。
普段、友達と政治の話はほとんどしない。「投票行かないよ」という声も耳にする。若者の投票率が低い理由を尋ねると、「政治家に会う機会がなく、遠い存在。自分が関わってもどうせ変わらないって思う人が多いのかな」と語った。
■「未来に向けた国のビジョンをしっかり見せてほしい」
投票所の出口で待機していると、突然「下野新聞か」と声をかけられた。「そうです。投票した方にインタビューをしてまして」と返すと、「俺は自民党に入れたよ」と言い放った。
妻と訪れたテツジさん(74)。自民党に投票した理由を聞くと、「政権担当能力があるから」と語った。
2009年に政権交代がおこり、民主党政権になったが「何もできず、失敗だった」と振り返る。「国を動かせるのはやっぱり自民党しかいない」と実感したという。
ただ、今の消費税減税などの議論を冷めた目で見ている。「民衆受けだけを狙って目先の政策だけやっていてはダメ。中長期的な政策、そして未来に向けた国のビジョンをしっかり見せてほしい」と今の政治に苦言を呈した。
■「投票行くことの重みを分かっていない人がいる」
母親と一緒に投票に来た大学生の山中愛遥(やまなかみはる)さん(22)。大学では街づくりを学び、経済学部に所属しているため政治に関心のある友人も多いという。
若者の政治離れについて聞くと、「SNSで政治の情報が流れてくるので、あまり若者の政治離れを感じてはない」と語ってくれた。一方で、投票に行くことの重みを理解していない人がいるように感じるという。山中さん自身、中学校などで主権者教育を受けてきたはずだけれども、明確には覚えていない。「もっと投票の大切さを知ってもらうような教育をしていく必要があるのでは」と訴えた。
【14:00】
■「一番困るのはトイレ」
車いすに乗った女性が投票所にやってきた。取材を申し込むと少し照れながらも応じてくれた。
女性は40代。毎回、期日前投票に来ているという。その理由を「投開票日の会場は車いすだと投票しづらいので」と話してくれた。当日投票の会場となる体育館の出入り口には小さな石が敷き詰められ、車いすでは通りにくいという。そのため段差がなく、投票しやすいイオンモールで投票するようになった。
日常生活で最も困るのはトイレだという。新しい施設は多目的トイレが完備されたところが多いが、古い建物だと備え付けられていない場合も多い。
「障害者でも暮らしやすい世の中になれば」。切実な声が心に響いた。
【15:00】
■「何でも高すぎます」
パートで働くノリコさん(51)は、同居する母親と買い物ついでにやってきた。中学2年の娘が部活をやっており、当日来られるか不透明なため期日前を選んだ。「入場券を持ってなかったからダメかなーなんて思ってたら、職員さんが『大丈夫ですよ』と言ってくれて投票できました」とうれしそうに語った。
今回、一番期待することは「物価高対策」という。スーパーで買い物するたび食品の値段に驚く。「ちょっと安いなーと思うと、内容量も減ってる。仕掛けるほうも上手で、何でも高すぎます」とため息をついた。
将来への不安も抱いている。これから娘が高校、大学に進学するとなるとお金がかかる。蓄えないといけないと分かってはいるが、なかなかできていない。年金も将来、受給できるのか。「不安はすごくあります」と、切実な思いを口にした。
【16:00】
■「絶対に戦争を起こさないでほしい」
投票所を訪れる人は午前中と比べ、まばらになってきた。
孫と一緒にやってきた年金暮らしの関根悦子(せきねえつこ)さん(74)。政治に期待することを聞くと、「絶対に戦争を起こさないでほしい」と語気を強めた。
「令和の時代に戦争なんて絶対だめ。防衛費増額する前に、外交で話し合ってほしい。孫のためにも平和な世界にしてほしい」と祈るように話した。
■「若い人の投票率が低いから、自分が行かなきゃっていう使命感」
夫婦で投票にやってきた小倉円香(おぐらまどか)さん(31)と哲平(てっぺい)さん(29)。2人ともサービス業で働いており、結婚して約1年半だという。
円香さんは毎回欠かさず投票には来ている。「若い人の投票率が低いから、自分が行かなきゃっていう使命感。あと、昔法律を勉強していたのでちゃんと投票しなきゃなって。それで夫も連れてきてます」と照れくさそうに笑った。
今回は自民党に投票した。「高市さんは女性初の首相なので、女性として応援したい」と期待を込める。
哲平さんは、政策実行力を評価しているという。「車好きなので、ガソリンの暫定税率廃止でとても助かった」といい、「生活に直結する政策に期待したい」
【17:00】
■「国には動物医療や治療薬の開発を支援してほしい」
愛玩動物看護師として働くシノハラさん(29)は、たまたま仕事が休みで期日前投票にやってきた。
投票は昨年夏の参院選が初めてだった。SNS(交流サイト)のVチューバー好きが集まるグループ内で「何かの規制が始まっちゃうから投票行こう」という書き込みがあり、それをきっかけに足を運んだ。
日本の動物医療は諸外国に比べて遅れていると感じている。治療薬を研究・開発する機関が少なく、薬を入手したい時は海外から取り寄せざるを得ない。「飼い主の負担は大きい」と現状を憂慮する。
「国には動物医療や治療薬の開発を支援してほしい」。動物医療の現場に身を置くからこその思いだった。
【18:00】
■「現状がちょっとずつよくなればいいかな」
終盤になって、取材を断られる場面も増えた。そんな中、応じてくれたのが会社員の田村覧(たむららん)さん(23)。
大学では工学部を専攻し自動車設計を学んでいた。今の会社は分野は違うが、設計の仕事ができているといい、「学生時代に学んだことを生かせている。楽しく働いています」と笑みを浮かべた。
政治に詳しいわけではないが、「とりあえず投票にはいかなきゃ」と思い毎回投票所に足を運んでいる。
期待することを聞くと、「現状がちょっとずつよくなればいいかな。ガラッと大きく変えようみたいな感じじゃなくて、コツコツやってほしい」
■「投票せずに政策の結果に文句だけ言う人間にはなりたくない」
製造業で働いている会社員の遠藤直生(えんどうなおき)さん(58)。大阪に家族を残し、小山に単身赴任している。「一人で寂しくないですか」と聞くと、「寂しいって考えたらやっていけないから。それは考えないようにして頑張ってます」と笑った。
毎回、反自民票を投じている。森友・加計、統一教会、裏金問題などでますます信用できなくなったという。
投票には欠かさず行っている。「投票せずに政策の結果に文句だけ言う人間にはなりたくない」との思いがあるからだ。
小山に住んで4年目。「交通の便がよくて、働き口も多い。住みやすくていいところ」と街の印象を話してくれた。
【19:00】
午後7時になり、投票所が閉まった。池澤書記長によると、4日は約890人が投票したという。想像以上の多さに思わず驚いてしまった。
取材を終え外に出ると、日は落ち、暗闇に包まれていた。9時間の密着だったが、あっという間に感じた。
家族連れや大学生、仕事帰りの会社員、年金暮らしの高齢者もいた。話を聞いた有権者の思いは千差万別。それぞれに一票を投じるまでのストーリーがあった。

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