県内25市町のうち14市町が、福祉分野の複雑で複合的な困りごとに対応する「重層的支援体制整備事業」に取り組んでいる。多機関協働などに多くの課題が浮かび上がるが、「地域共生社会」実現の有力な手だてとして着実に推し進めてほしい。

 行政などが80代高齢者の介護の支援に入ると、50代のひきこもりの子がいる。「8050問題」だ。生活困窮に障害の要素が絡んでいることもある。こうした事例は珍しくない社会の断片だろう。

 2021年度から始まった事業は「包括的な相談支援」「地域とつなぐ参加支援」「多機関協働による地域づくり」の三つが柱。それらを推進する市区町村に厚生労働省が交付金を出す。県内で栃木、市貝、野木の3市町が22年度に始め、14市町に拡大。大田原、矢板など複数の市町が準備を進めている。

 「入り口」であるワンストップ相談は極めて重要だ。相談者は困難が積み重なり、的を絞って相談することは難しいことが多いだけに、その有用性は大きい。絡み合った課題をほぐし、支援につなげることを期待したい。

 宇都宮市の場合、23、24両年度に30カ所の窓口で計約6万3千件の相談を受けた。那須塩原市は「隙間」を生じさせないよう、市と社会福祉協議会双方に窓口を設けている。各市町は需要を掘り起こすため、窓口の積極的な周知も欠かせない。

 支援分野は貧困、介護、障害、就労、子どもなど幅広い。その分、さまざまな官民の支援機関を要し、縦割りを排した柔軟な連携や継続的な支援も必須。教育や住宅などの分野との連携も意識したい。支援機関の不足、偏在も指摘されている。市民を巻き込むことも大切だ。「居場所」づくりなどは市民も協力できるのではないか。

 当事者の困難を見渡せるコーディネーターや、声を上げられない人の元に出向き支援に乗り出す「アウトリーチ」を担える人材の確保も道半ばである。事業の実効性向上に向け、各事例と向き合い市町を軸に知恵を絞ってほしい。

 事業を推進してきた厚労省は、財政事情を理由に交付金を減額する方針を打ち出している。しかし共生社会実現の意義が薄れることはない。厚労省は各自治体との連携を密にし、地域事情に即した体制構築に力を尽くすべきだ。