4月4日からNHK総合で放送が始まるテレビアニメ『MAO』。高橋留美子の最新作が原作で、主人公の摩緒役は声優の梶裕貴が務める。高橋留美子作品の大ファンという梶は「10年前、10年後ではなく、今の年齢だからできる役」だと言い、出演への喜びを語った。(取材・文 共同通信=高坂真喜子)

【かじ・ゆうき】

 9月3日、東京都生まれ。『進撃の巨人』エレン・イェーガー、『僕のヒーローアカデミア』轟焦凍、『名探偵プリキュア!』ジェット先輩など出演作多数。

【『MAO』あらすじ】

 大正時代を生きる陰陽師の青年、摩緒は平安時代に“呪い”を受け不老不死となり、900年間生きている。令和を生きる中学3年生、黄葉菜花(きばなのか)は小学1年生の時、家族と事故に巻き込まれたが、自分だけ生き残った。ある日、菜花が事故現場となった商店街の門を通ると、妖がはびこる大正時代にタイムスリップしてしまう。そこで、摩緒に出会い、物語が動き始める―。

(1)ついに実現

▼記者 原作を読んだ時の印象はいかがでしたか?

●梶 高橋留美子先生の作品は、以前から大好きだったので、新連載としてスタートした時から胸が高鳴っていました。昭和・平成と常に週刊連載を続けてこられた、漫画界のレジェンドである高橋留美子先生の新作が、この(令和の)時代にリアルタイムで読める。一人のファンとして幸せですし、なにより先生が描き続けていらっしゃるということ自体が素晴らしい。本当に、とてつもないことですよね。

 『MAO』については、以前「るーみっくわーるど」ファンとして取材を受け、愛をたくさん語りました。

 その際に、留美子先生が摩緒のイラストとメッセージ入りのサイン色紙をプレゼントしてくださって。まるで夢のようでしたね。先生も編集部の方も、ぜひいつかアニメ化したいです、というお話をされていて、僕も何らかの形で、声優として関わらせていただけたら最高だなという思いは、もちろんありました。

 それから数年たち、漫画のプロモーションの一環として、原作の『MAO』のダイジェストムービーを作ろうという時に、摩緒の声としてご指名してくださって。その時にも、先生からイラスト入りサイン色紙を頂戴したんですが、そこには、ついに実現しましたね、というメッセージも添えられていて。本当にうれしかったですね。その後、キャストによる生配信番組などを経て、いよいよテレビアニメとして制作します、摩緒の声を引き続き担当してください、というお話を聞いた時は、もう涙が出るほどうれしかったですね。

 『らんま1/2』、『犬夜叉』、『境界のRINNE』のように、タイトルに名前の主人公役を任せていただけるという、念願がかなった瞬間。頑張ってきてよかった、と心から感じました。同時に、留美子先生作品に携わらせていただくということへの責任感、重みも感じましたね。

(2)『犬夜叉』に共通する愛の表現

▼記者 『MAO』の作品の魅力をどう感じていますか。

●梶 僕は、いわゆる『犬夜叉』世代。小学生の時に連載が始まって、中学生の時にはアニメ放送を見ていました。大まかなあらすじとしては、現代と過去を行き来しつつ、主人公の宿命にヒロインたちが巻き込まれ、一緒にそれを背負っていく、というもの。そういった意味では、どこか本作と近い部分もあるかもしれませんね。

 ただし今回は、大正、そして平安までさかのぼる壮大な歴史絵巻。さらにはミステリー要素まで何でもござれの多面的なアプローチ。圧倒的な世界観ですよね。ヒロイン・菜花からは、人との(心の)距離感、心の距離感の置き方に、令和の女子らしさを感じました。そんな彼女と、平安から生き、大正時代を過ごしている摩緒との間には、どうしても価値観や文化・習慣にギャップがあるわけです。けれど、そんな違いを抱える中で、さまざまなドラマを通して少しずつ絆を強め、溝を埋めていく姿には胸うたれるものがありますね。そんな幅広い意味での“愛”の表現からも、『犬夜叉』と共通する部分を感じますし、非常に魅力だなと。

▼記者 高橋留美子先生の作品の好きなところは。

●梶 留美子先生は、ご存じの通り100%ギャグタッチの作品もお得意の作家さんです。その上で、『MAO』のようなシリアス度の高い作品も描けてしまう。その表現の幅広さに、改めて衝撃を受けました。そもそも今現在も週刊連載を続けられ、さらにはアニメ化まで実現されてしまうということ自体が偉業ですからね。

▼記者 高橋先生の作品の中で、特に好きな作品はありますか。

●梶 もちろん今は『MAO』ですけど、先ほどもお話したように、世代としては『犬夜叉』です。小中学生の時に触れた作品なので、とても大きな影響を受けていると思います。とはいえ、最初に受け取った作品という意味では、再放送で見た『らんま1/2』のイメージも強いかもしれません。あの2タイトルは同じ先生が描かれた作品なんだ、というのを知った時、大きな衝撃を受けたことを覚えています。その後、「人魚シリーズ」などの短編も拝読しました。個人的には、人間の業、心の闇みたいなものが描かれた作品が好きなので、やはり『MAO』が好き、ということになるのでしょう(笑)。

(3)相手によって変化させる声色や温度感

▼記者 摩緒というキャラクターにはどんな印象を持っていますか。

●梶 もともと平安時代に生きていた、ピュアで優しい陰陽師。猫鬼(びょうき)に呪いをかけられて、900年間生き続け、今は大正の世で暮らしています。猫鬼との因縁に決着をつける、という最大の目的がありますが、細かい部分の記憶がなく、これまで一人で生きてきました。不老不死の存在なので、さまざまな人との出会いや別れを繰り返し、時代の変遷を見届けてきた人、とも言えるでしょう。

 900年。常人であれば、狂ってしまうほどの孤独にさいなまれてきたと思います。そういった感情を抱えつつ、乗り越えてきた人間なので、当然、とても思慮深い。乙弥をはじめ、近しい関係の存在を大切にする半面、そう簡単に他人に心を許さないでしょうし、信じないでしょう。そして、全ての物事に対して一喜一憂しない。

 身近な話題に置き換えると、子供から大人に成長する過程での感動量の変化、みたいな感覚と近い気がするんですよ。子供って、すべての出来事が新鮮に感じられるから、感情豊かで、そのぶんテンションが高いと思うんです。けれど歳を重ね、さまざまな事象を経験していくと、そのぶん新鮮味が薄れ、ひとつの話題に対して、そこまで心が動かなくなっていくのだろうなと。つまりは摩緒が、僕らの数百倍以上の経験値を抱えているのだとすれば、本来の性格や性質とは違ったところで、おのずと淡々としたアウトプットになってくるものなのでは、と考えたのです。そういった理由もあって、物語序盤は特に、ロートーンでローテンション、口数少なく淡々と、という印象が強かったですね。ただ、ベースにいるのは平安時代のピュアで優しい摩緒。菜花や乙弥、百火や華紋など、会話する相手によって声色や温度感を、ちゃんと変化させるのが大事だと思って演じていました。

▼記者 演じる中で感じたことは。

●梶 関わらせていただくタイミングとして、自分の今の年齢、キャリアがうまくはまったのだろうなと感じています。先ほどもお話したように、摩緒は、平安時代に生きていた頃のピュアでイノセントな部分を持ちつつも、900年間、さまざまな経験をしてきた存在です。であれば演じる側も、ある程度、人間としての経験値がなければ説得力も生まれないのでは、と。きっと10年前であれば、自分には演じきれなかった役だろうなと思いますし、逆に10年後だと、(ビジュアルとしての)若者の雰囲気が薄れてしまっているのだろうなと思うんですよね。今このタイミングでアニメ化され、そして、今の自分だからこそ表現できる役なのではないかと。やるべくしてやらせていただけた――少なくとも自分では、そう思って担当させていただきました。

▼記者 演じる上で難しかったところはありましたか。

●梶 話す相手によって声色を変えるのに、かなり繊細なチューニングが必要で、そのコントロールが難しかったですね。

 というのも、すごく和気あいあいとしたアフレコ現場だったんですよ。みんな作品が大好きで、常にニコニコ会話して。もちろん僕も、その輪に参加するのですが…摩緒の声は、自分の中では低いトーンとテンションなので、演じる上で、あまり楽しげなムードに引っ張られ過ぎてはいけないなと感じていたんです。その切り替えをしっかり調整しないと、いざマイク前に立った時、うまく役に入れない。ただ、今回は座長という立ち位置でもあるので、その輪から外れて孤立して過ごすというのも、ちょっと違うなと。そういった意味合いにおいて、自分とキャラクターの切り替え、休憩中と収録中の切り替えは、すごく意識していた点ですね。

(4)原作の世界観を見事に形に

▼記者 収録現場はどんな雰囲気でしたか。

●梶 菜花役の川井田夏海さん、乙弥役の寺澤百花さんは、よくぞこの2人を見いだしたな、と感動するレベル。その2人を筆頭に、どのキャストも本当にぴったりだなと、現場で声と芝居を聴きながら感じていました。猫鬼の松山鷹志さんも、ご本人はすごく優しく穏やかな方なのですが、そんな松山さんのことが怖くなるぐらい…ちょっと嫌いになるぐらい、ぴったりで(笑)。

 監督の佐藤照雄さんは、あらゆる面で気遣いをしてくださる方。ディレクションに関してはもちろん、毎週のように差し入れを持ってきてくださっていました。イチゴなどの旬の果物はマストでラインアップに入っていつつ、加えて、この作品らしく和菓子などもご用意くださって。それを楽しみにみんな現場に来ているくらいでした(笑)。すごく柔和な方で、誰が表現したものに対してもすごく寛容で、いろいろな形でトライさせてくださる懐の広い監督でした。

 そして、音響監督の菊田浩巳さん。新人の頃からお世話になっている大ベテランさんです。菊田さんがバシッとお芝居をまとめてくださるのが、僕たち役者としてはすごく心地よかったですね。個人的には、菊田さんの現場で摩緒のようなタイプのキャラクターを演じるのが初めてで。レギュラーが始まる前に「梶さんのちょっと大人なお芝居を楽しみにしています」というお言葉をいただき、やや緊張もしていたのですが(笑)、アフレコが終わる頃には、「梶さんの摩緒、とてもすてきでした」と言っていただけて、それがすごくうれしかったですね。

▼記者 見どころを教えてください。

●梶 実は、アフレコ自体はだいぶ前に終わっており、最近になってようやく完成したフィルムを拝見したのですが、本当に感動的でした。アフレコ時から作品に対するリスペクト、愛情を感じる現場でしたが、色がついて音が入って動いている摩緒たちを見ると、あらためて感慨深い気持ちになりましたね。シンプルに、ものすごく質が高いアニメーションだなと感じております。

 高橋留美子先生の描かれる世界観、漫画のニュアンスを細部までくみ取って、見事に形にしていただいているので、原作ファンの方にも絶対にご満足、ご納得いただける仕上がりになっているかと思います。またアニメ化を機に、初めて『MAO』に触れるという方にとっても、毎週続きが気になること間違いなしの展開ですので、まずは第1話の放送を、期待してお待ちいただければと思います。