
一挙に春めき、気温上昇とともにビールのうまい季節がやってきた。そんな春らんまんの中、栃木県内のブルワリーが一堂に会す「とちぎクラフトビアフェスタ2026」(栃木クラフトビール協同組合主催)が4月17~19日、JR宇都宮駅東口のライトキューブ宇都宮前広場で開かれる。今年で13回目。出店者はブルワリーが前年より2社多い13社。そしてインポーター2社が出店するなど、「麦どころ栃木」を誇るビールの祭典になる。そしてファンからの「こんなビールがあったらいいな」というアイデアに各ブルワーが挑む「クラフトビアチャレンジ」にも熱が入る。
フェスタ恒例のクラフトビアチャレンジは9回目。1~2月に寄せられた126のアイデアからブルワーが挑戦するビールのテーマが下記の四つに決まった。
(1)「薔薇(バラ)のエレガントビール」
(2)「見た目も映えるカフェラテビール」
(3)「世界を旅するカントリービール」
(4)「いちごチョコフォンデュビール」(後援のRADIO BERRY枠)
この四つのお題に、ブルワリー10社のブルワーが挑む。同じテーマでも造り手が違えば、表情も香りも、物語も変わる。それがビアチャレンジの醍醐味(だいごみ)だ。フェスタ会場でファン投票が行われ、チャンピオンが決まる。
「薔薇のエレガントビール」に挑む「ISHII BREWING」(足利市問屋町)の石井敏之(いしいとしゆき)さん(58)は、“エールビールのレジェンド”として業界の第一人者だ。地域に根付いたクラフトビール文化が花開く米国に憧れ、サンディエゴでアメリカンペールエールを学んだ。01年、大手ビール会社の製造責任者になり、看板商品を開発、商品化した。当初から独立を目指していたことから10年、本格ペールエールを世界に広めようとグアムで開業した。しかしコロナ禍を機に出身地の足利に戻り、22年にブルワリーを開設。24年から「ORIHIME(おりひめ)」ブランドでペールエールなどを広める。
この間、桜の葉から桜のアロマを実現した「Cherry Brossom Ale」を英国で登録するなど花を生かしたフラワースタイルビールの経験は豊富。テーマのバラのエールには、色が赤い自社のレッドIPA(インディアペールエール)の二次発酵時にバラのアロマを使ったもの、ハイビスカスのアロマを用いたもの、その両方をブレンドしたものの3種を仕込んでいる。
「『あっ赤い』というイメージから、エール酵母によるエステルがフルーティーで、口に付けたら花のイメージを感じられるものにしたい」と語る。
このほかバラのエールには、「油伝麦酒」(栃木市嘉右衛門町)、「ろまんちっく村ブルワリー」(宇都宮市新里町)も取り組む。
「世界を旅するカントリービール」は「808ブルワリー」(小山市東野田)の小野崎広明(おのざきひろあき)さん(35)ら3人のブルワーが挑戦する。808ブルワリーは青果物販売の「SUNフーズ」(小山市駅南町6丁目)が新規事業として21年6月にビール醸造を始めた。ブランド名「808(ヤオヤ)」は八百屋(ヤオヤ)から命名したという。小野崎さんは創業以前も別のブルワリーでクラフトビール造りに携わったキャリアを生かし、一人で切り盛りする。
ビール文化は欧州で始まり、米国がクラフトビールの火付け役になっていて、国内で造られるクラフトビールは基本的に輸入原料に頼っている。小野崎さんはそんな背景から「以前から日本の文化であったりとか、それらをミックスした『日本』を感じられるものを造りたかった」ことがテーマへの挑戦理由を話す。
そして「日本なら日本酒が思い浮かぶ。日本酒は米が原料なので、ビール原料の一部に米や酒かすを取り入れ、日本酒っぽい雰囲気と米国寄りのポップの利いたものをミックスして日本ぽさを感じられるもの」を目指し醸している。
チャレンジへの参戦は3回目。前々回3位、前回2位と上がってきているので「1位(チャンピオン)を狙っていきたい」と“宣言”する。一方で「会場では同じIPAを造っていても各ブルワリーで味が全く違う。それぞれの個性が出てくるんで、絶対にはまるビールがあるはず」とフェスタの魅力をアピールする。
旅するビールには「栃木マイクロブルワリー」(宇都宮市塙田1丁目)が「イタリア」を、「BLUE MAGIC」(宇都宮市池上町3丁目)も「イタリアのシチリア」をテーマに出品する。
「見た目も映えるカフェラテビール」には、「うしとらブルワリー」(下野市笹原)、「THE KICHI」(日光市相生町)、「トリイ堂醸造」(鹿沼市鳥居跡町)、「那須高原ビール」(那須町高久甲)がチャレンジする。
東武日光駅とJR日光駅の間で日光観光の「基地」になるようなカフェを目指したTHE KICHI。24年12月からクラフトビールを醸す。オーナーの細田央(ほそだひろし)さん(34)は18年1月に醸造を始めた日光ブルーイング(日光市木和田島)の立ち上げに関わり、チャレンジへの参戦は4回目。
トリイ堂醸造が今年2月に醸造免許を取得する前、ブルワーの若林勇太(わかばやしゆうた)さん(40)はTHE KICHIで醸造を修業した。若林さんは細田さんにとって、いわば弟子。細田さんは「弟子がカフェラテで参戦するという話を聞き、ならば師弟対決みたいな感じって面白いかなと思い、私もカフェラテを選びました」とくだける。
細田さんは目指すカフェラテビールについて一番目に苦みと甘味のバランスを挙げる。ビール自体の苦みは抑え、コーヒーのローストの苦みを重視し、乳糖を使ってモルト由来の甘味も多少残す。口当たりを柔らかくするため、脱脂粉乳でミルク感を出し、オーツ麦を使うなど長時間煮詰めてとろみを出すことを目指して現在醸造中だ。
「フェスタでは栃木っておいしいクラフトビールがいっぱいあるということをもっと知っていただきたい。来場したお客さんにはうちのビールを飲んでいただきたいですけど、いろいろなビールも飲んでほしいですね」と呼び掛ける。
こうした取り組みはビールのイベントでは珍しいという。ビールは大手メーカーのものが身近だが、イベントで直接、ブルワーたち造り手の思いの詰まった「栃木のものづくり」に触れ、交流するのも新たな栃木の魅力発見につながるはずだ。足を運べば、春のひとときが至福のものになりそうだ。
(伊藤一之)

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