TVアニメ「左ききのエレン」より((c)かっぴー/アニメ「左ききのエレン」製作委員会)

 TVアニメ「左ききのエレン」より((c)かっぴー/アニメ「左ききのエレン」製作委員会)

 TVアニメ「左ききのエレン」より((c)かっぴー/アニメ「左ききのエレン」製作委員会)

 インタビューに応えるかっぴー=2026年3月、東京都港区で撮影

 インタビューに応える内山夕実=2026年3月、東京都港区で撮影

 TVアニメ「左ききのエレン」より((c)かっぴー/アニメ「左ききのエレン」製作委員会)

 TVアニメ「左ききのエレン」より((c)かっぴー/アニメ「左ききのエレン」製作委員会)

 TVアニメ「左ききのエレン」より((c)かっぴー/アニメ「左ききのエレン」製作委員会)  TVアニメ「左ききのエレン」より((c)かっぴー/アニメ「左ききのエレン」製作委員会)  TVアニメ「左ききのエレン」より((c)かっぴー/アニメ「左ききのエレン」製作委員会)  インタビューに応えるかっぴー=2026年3月、東京都港区で撮影  インタビューに応える内山夕実=2026年3月、東京都港区で撮影  TVアニメ「左ききのエレン」より((c)かっぴー/アニメ「左ききのエレン」製作委員会)  TVアニメ「左ききのエレン」より((c)かっぴー/アニメ「左ききのエレン」製作委員会)

 才能の限界に苦しみながら、“何者か”になろうともがく凡人と、圧倒的な才能を持った天才、2人の姿を描く漫画『左ききのエレン』。4月7日からテレビ東京系でアニメが放送されるのを機に、原作者のかっぴーと山岸エレン役の内山夕実にインタビューした。広告会社で働いていたが挫折、転職した先の会社も辞めて漫画家になったという経歴のかっぴー。「自然にできることが一番向いていると感じる。漫画家の仕事は天職。他の仕事は想像できない」と語る。2人が考える「才能」とは―。(取材・文 共同通信=高坂真喜子)

【あらすじ】

 デザイナーになるため美大を目指す高校生、朝倉光一はある日、美術館の壁に殴り描きされたグラフィティに衝撃を受ける。描いたのは、左ききの女子高生、山岸エレンだった。2人は描くことを通じてお互いを認め合い、光一はデザイナー、エレンは画家への道を歩み始めるが―。

(1)「本当か?」と疑ったアニメ化

▼記者 ついにアニメ化されました。

●かっぴー アニメ化の話が来た時、「本当か?」と、結構疑っていました。こういう企画がなくなることは山ほどあるので。今回も、最初は「いいところまでは来ているんだろうな」という程度の受け止めでした。この作品は「少年ジャンプ+」での連載が2022年に一度完結したのが、ちょうどアニメ化が決まりたてのタイミングで、今が一番読者にも伝わるから、と発表しました。前例がないぐらい早いタイミングでしたが、その時に「発表したらこっちのもんだ、確定だ」と思ってうれしかったですね。読者と一緒に喜んだ感じです。

◆内山 この作品は衝撃的な内容で、漫画というよりドラマを見ているような生々しさを感じました。作品世界に自然と入り込めて、スルスルと読み進めていました。アニメ化を熱望していたファンが多いと感じていたので、携われるとしたら、私も同じぐらいの気迫で臨まないと、と思っていました。

(2)漫画家になれると思っていなかった

▼記者 この漫画を描き始めたきっかけは。

●かっぴー もともと子どもの頃から漫画が好きだと思っていましたが、そんなに絵がうまくなくて、なんとなく諦めていました。年を重ねるにつれて現実的になっていくという、劇中でさゆりというキャラクターがいますが、まさに自分も打算的に考えるタイプでした。

 絵は他の人よりは描けるとか、勉強は上には上がいるとか、持っているいろんな「カード」を見渡して、高校生ぐらいの時に、広告代理店とかに行ったらうまくいくんじゃないかと思って。じゃあ美大に入ったらいいか、と逆算して、「全部今のところ計画通り」という気持ちでやっていましたが、社会人になって数年目ぐらいに破綻しました。このままだと、本当にパッとしない中堅のクリエーターとして終わるなと思いました。

▼記者 広告代理店からウェブ制作会社のプランナーに転職したのですね。

●かっぴー 新しいキャリアをスタートして、自己紹介で何かしなきゃと思って、何の気なしに、社員に覚えてもらおうと思って、漫画を描き始めました。ちょっと珍しいことですが、ギャグ漫画を描いて同僚に見せて、みんな笑ってくれました。社内でちょっとした人気者になって、それで良かったと思っていたんです。でも、ある日、仲良かったデザイナーの同僚が会社を辞める時に、人ごととは思えなくて。

 自分も美大に行って、デザイナーというキャリアを経て、芽が出なかったから今プランナーになって…、と悩んでいた時期。辞める同僚に自分を重ねて、自分も同僚も天才になれなかったなと思った時に、『左ききのエレン』のストーリーを思いついて、書き始めました。

(3)独立1カ月目の収入は「5万円」

●かっぴー 自分のために書いたのが一番大きかったのですが、それが幸いにも「cakes」という当時あったウェブ媒体で連載しませんか、と。大手の出版社ではないですが、これを連載するなら会社辞めなきゃと思いました。片手間にやるような内容じゃない。本気出してからやめろ、諦めろという内容なので、自分に命綱が付いている状態だと説得力ないと思ったのもありました。覚悟を決めて、自分が漫画家になれるかどうかをこれで確かめようと思いました。

▼記者 すごい覚悟です。

●かっぴー 作品のメッセージと同じことをやるために、会社を辞めてやり始めたって感じですね。最初から脚光を浴びてデビューしたように見られるかもしれないですが、最初は何の保証もなく、周りの人は「それで会社辞めるんだ」と驚いていました。『左ききのエレン』で最初にもらったお金は、独立して1カ月目ですが、5万円でした。今でもはっきり覚えている。よく会社を辞めたなと思いますが、それぐらいやらないと説得力がない。悲壮感も全然なくて。5万円、うれしかったです。

 内山さんは最初のお仕事を覚えていますか?

◆内山 高校生だったので、お給料というより、自分の名前がクレジットされたところに一番感動を覚えました。

(4)内山夕実が感じた天才を演じる難しさ

▼記者 かっぴーさんの経験がこの作品にはかなり反映されていますね。

●かっぴー そうですね。ただ、もちろん光一でもないし、さゆりでもないですが、自分の中にある側面や今まで出会ったかっこいい大人たちを反映しています。そういった意味では自分の経験は生きていますが、もちろん自伝ではないし、全然光一ほど頑張れませんでしたけど。

▼記者 内山さんはエレンを演じてみて、どんなことを感じましたか。

◆内山 本当に難しかったです。そもそも天才がどんなことを普段考えているかって、全く想像できませんでした。エレンの中にある孤独を感じて、人のことを突っぱねているようで、実は誰よりも人を求めているような、そこがすごく人間らしくて、お芝居の中で出せていけたらいいなと。

▼記者 収録現場はどんな雰囲気でしたか。

◆内山 特に序盤の方は光一との掛け合いも熱いものがあり、すごく印象的でした。時代が行ったり来たりするので、光一が社会に出てからのストーリーは、エレンとは全くシチュエーションが変わるので、出てくるキャストさんたちもその都度変わって、すごく新鮮味がありましたね。

(5)描きたかった天才と凡人の人生

▼記者 高校時代と社会人になってからの話が行ったり来たりするストーリー展開にしたのは、どんな意図があったのでしょうか。

●かっぴー お仕事漫画というカテゴリーで見られることが多いと思いますが、お仕事を描くというより、ある天才と凡人の2人の人生を描きたかった。走馬灯のように、あるいはその人の話をするように描きたいなと思い、自然にこの形態になりました。「光一ってやつがいてさ」と、言葉で誰かを思い出しながらしゃべる時って時系列が飛びますよね。特殊な形態にはなったけど、彼の生きざま、人生、彼と彼女の人生を描きたかった。

 「一方、その頃」と、いろんなキャラクターの話が出てきて、それが最後に1本の筋になる、そういう映画、群像劇が好きでした。自分の好みのしゃべり方をしたら、こうなりました。

▼記者 内山さんは演じるお仕事をする中で、才能ということを感じることはありますか。

◆内山 才能は、自分で思うより、周りに言われて初めて気づいていくものという気がしています。いくら自分は自信がなくて向いてないと思っても、周りが「あなたはこういうところがすごく合っている」とか、「ここがすごい」と言ってくれたら、だんだんと自分に自信が持てて、自分にはこういう才能があるのかもと思えるのではないでしょうか。そうなるには続けることが大事だと思います。

 私の場合は、一度声優をやめて、戻ってきたので、続けた結果、今こういうことを言えていると思います。

(6)集中できることが才能

▼記者 かっぴーさんは広告業界での才能についてどう思いますか。

●かっぴー 僕は芽が出ませんでした。「集中力が才能だ」と、劇中でも語っていて、つまるところ、何に集中できる人間なのかが一番大事で、僕は漫画を描いている時が一番集中できる、その世界に入り込むことがアウトプットに生かされる。

 広告業界は客観性が大事で、クライアントに気に入ってもらわないといけない。その辺が向いていなかったなと思います。自分が考えた話をずっと書いて、仕事になるのはすごいと感じます。仕事だから腕を磨くという発想にもならないくらい、自然なことでした。広告業界にいた時は、どうやったらスキルアップできるかなとか、いろんな講演会に行って、先輩の話を聞いてメモを取って、頑張って。いいものを見ろって言われて、映画を見て、美術館に行って、本を買って読んだりとかして。すごい頑張って勉強しなきゃ、スキルを磨かなきゃと思っていたけど、今は一人で机に座っていればできる。自然にできることが一番向いているんだろうなと思って。だから天職ですね。それを見つけることが大事だと思いました。広告業界にいた時は、漫画なんて描けるわけないと思っていました。いざやってみたら、なんで広告の仕事ができると思ってたんだろう(笑)。今の仕事は、他の仕事が想像できないくらい当たり前になっていますね。

▼記者 仕事で困難を感じることはないですか。

●かっぴー 作ることにおいては何もないかもしれません。スケジュールの大変さはありますが。他の仕事と比べると、どうしたらもっと良くなるんだとか、なんであの人みたいにとか、こういう悩みはなくなったかもしれないです。すごい自信満々でやっています。毎週「こんな面白いのできた」と。その後にそれが売れるかどうかは別問題ですが。自分が良いと思っているのにあまり受けないなとか、そういうギャップに悩むことはあるけど、作ることにおいてはあまり悩まない。

(7)競争から見つけた「適材適所」

▼記者 内山さんは、声優のお仕事の面白さとか難しさを、どんなところに感じていらっしゃいますか。

◆内山 最初の頃は自分ではない別のものになることができる喜びがありましたが、キャリアを積むうちに変わっていきました。自分たち声優が携わる前から、たくさんの方たちが企画を準備しています。アフレコの時には、携わっているスタッフさんたちは、ようやくこの日を迎えたという思いがあります。常にそこに応えられる自分でいなければという、プレッシャーを感じています。オーディションで選んで良かったと思ってもらえるようにお仕事を全うする、そこが私は一番だと思っています。作品を世に送り出す1人の作り手として、恥じない働きをしたいです。

▼記者 この作品でも競争が描かれますが、声優業界にも競争があります。

◆内山 若手の頃は誰かと自分を比べていました。他の人が役をもらった時に、自分のどこが足りないのかと、マイナスなことばかりを考えていました。今は適材適所、私にはこういう役が合っていて、たまたまご縁がなかったんだなと考えられるようになりました。例えば自分が受けた役が別の方になった時も、その方のことをすごく喜べるようになって、変わったという自覚があります。

(8)苦く、痛く、忘れられない作品に

▼記者 この作品の見どころを教えてください。

◆内山 心をえぐられるような、苦しくなるような、あえてそういった部分をしっかり描いています。でもそこを乗り越えた先に、達成感があると思っています。すごくエネルギーが詰まった作品なので、これから見てみようかなという方には、このアニメを通して、原作にも手を伸ばしていただけたらと思います。

●かっぴー 最近特に、あまり気持ちを揺さぶらない作品がいいとされている気がして、痛みを伴わないコンテンツが受けているなという印象があります。僕が若い頃は、いろんな作品があって、そういう無痛のコンテンツもある一方、苦い作品もあったし、いろんな味があったと思うんですよね。僕はずっと変わらない気持ちで描いてますけど、今このタイミングでアニメ化されたのは良かったと思います。痛いものとか苦いものが少ない中で、久々にこういう作品を見て、忘れられない作品になってほしい。楽しかったで終わらない作品として残ってくれたらいいです。1週間で忘れるものではなく、10年後も思い出す時に苦みが口の中に広がるような作品になればいいなと。

▼記者 お互いに伝えたいことはありますか。

●かっぴー 内山さんがエレンで良かったです。僕の中にも明確にこういう声、というのがあまりないキャラクターだったので。エレンはすごくクールで冷たい側面もあれば、子どものような側面もあるし、誰にするか悩むだろうなと思っていました。それで何人か聞かせていただいた中で、内山さんのエレンをエレンにしようと決めました。後で通して見たら、「これしかない」と思うでしょう。

◆内山 アニメを見てくださる方にどう受け止めていただけるのか、ドキドキしますが、自分なりに全うしたつもりなので、安心して見ていただけたらと思います。

【かっぴー】

1985年神奈川県生まれ。株式会社なつやすみ代表。武蔵野美術大を卒業後、広告会社のアートディレクターとして働くが、挫折。ウェブ制作会社のプランナーに転職後、趣味で描いた漫画をインターネットで公開し、大きな話題となる。2016年に漫画家として独立した。

【うちやま・ゆみ】

10月30日生まれ、東京都出身。出演作に『無職転生』のルーデウス、『結城友奈は勇者である』の犬吠埼風など。