~日本発の分析手法をヨーロッパで初適用、約6,000年前の交易と技術を解明~

2026年4月16日
札幌国際大学

 

札幌国際大学(北海道札幌市清田区/学長:蔵満保幸)は、人文学部国際教養学科の髙倉純教授が参画する国際共同研究において、中央ヨーロッパの遺跡から出土した黒曜石製石器の分析を行い、約6,000年前の交易と石器製作技術の実態を解明しました。

 

本研究成果は、2026年4月11日に国際学術誌「Journal of Archaeological Science: Reports」に掲載されました。

 

ポイント

・スロバキア西部のニトラ・セレネツ遺跡から発見された黒曜石製石器の研究。

・遠距離から交易を介して入手したと推定される黒曜石の特殊な取り扱われ方の解明。

・日本で推進されてきた黒曜石製石器を対象とする研究手法をヨーロッパの資料にはじめて応用。

 

概要

スロバキア科学アカデミー考古学研究所のアドリアン・ネメルグト博士、ミハル・ヘベン博士、マサリク大学考古学・博物館学科(チェコ)のルドミラ・カニャコヴァー・フラジーコヴァー博士、札幌国際大学人文学部の髙倉 純教授らの研究グループは、スロバキア西部の遺跡であるニトラ・セレネツから発見された黒曜石製石器を分析し、遠距離から運び込まれた黒曜石の特殊な利用法を解明しました。

 

スロバキア西部のニトラ・セレネツ遺跡で2009~2010年に実施された発掘調査では、金石併用時代前期に属する約6,000年前の黒曜石製石器が2つの土坑から発見されました。この黒曜石製石器の原材料がどこから入手されてきたのか、またこの遺跡に残されるまでにどのような利用がなされてきたのかを解明するために、考古学や化学分析を専門とする研究者が参画した学際的な共同研究が実施されました。

 

分析の結果、遺跡から発見された黒曜石は、直線距離で約250km離れたハンガリー北東部の産出地に由来することがわかりました。遠隔地から交易によってもたらされたと推定される黒曜石では、押圧剥離法によって小形の石刃が生産されていました。また、小形石刃が剥離されている石核では、砥石によって磨かれ、平滑な面が作り出されるという特殊な行為がなされていました。

 

なお、本研究成果は、2026年4月11日公開のJournal of Archaeological Science: Reports誌に掲載されました。

 

用語解説

・黒曜石: 火山ガラスの一種です。火山活動に伴って生成されるので、産地ごとに異なる化学組成を示すという傾向が把握されています。それを利用して遺跡から発見される黒曜石製石器の産地推定が試みられています。北海道では白滝や置戸などに黒曜石の産地があります。

 

・金石併用時代: 精錬された銅の使用が開始され、次第に増加していく時期のことを指します。

 

・押圧剥離法: 石器製作の際に、ハンマーを用いて打撃を加えるのではなく、荷重による圧力で石片を剝がしていく石器製作方法。定形的な石器製作のために開発・普及しました。

 

・石核: 石器の素材となる石片を剝がした後に残った部分のことを指します。

 

・石刃:長さが幅の2倍以上になる縦長の石片で、左右の側縁がほぼ平行し、表面に縦方向の剥離面が残されているものを指します。

 

 

背景

中央ヨーロッパのカルパチア山地のなかでも、ハンガリー・スロバキア・ウクライナの三か国が国境を接する地帯には、良質な黒曜石が産出する地点が複数あります。そこで産出した黒曜石は、新石器時代が始まって以降、本格的に中央ヨーロッパ各地で利用されるようになりました。スロバキア西部のニトラ・セレネツ遺跡において2009~2010年に実施された発掘調査では、金石併用時代前期に属する黒曜石製石器が発見されました。それらの資料は、カルパチア山地に所在するいずれかの産地に由来するのではないかと想定されました。

 

また、遺跡から発見された黒曜石製石器の一部には、器面が磨かれているものがありました。こうした特殊な石器がどのような役割を有するものであったのかを明らかにするためには、いかなる道具を用い、どのような動作で磨かれたのか、またそれらの石器がどのような割り方で作り出され、使用されていたのかを特定することが必要でした。

 

金石併用時代における中央ヨーロッパでの黒曜石利用の社会的意義を解明することを目的に、国際的研究グループが組織され、黒曜石の産地推定分析や石器の製作・使用痕跡の分析が実施されました。

 

用語解説

カルパチア山地: スロバキアからポーランド、ウクライナ、ルーマニア、そして周辺のチェコ、ハンガリー、セルビアにまたがる、全長約1500kmの山脈です。

 

研究手法

遺跡から発見された黒曜石の産地を推定するために、エネルギー分散型蛍光X線分析による化学組成の分析が実施されました。また、石器の製作・使用過程を明らかにするために、剥離面の前後関係の識別にもとづいた剥離工程解析や低倍率・高倍率の顕微鏡を用いた痕跡分析が行われました。黒曜石が磨かれた際の道具や動作を同定しようとする際には、その同定基準を把握するために、同じような痕跡を復元的に作り出す実験も遂行されました。

 

遺跡から発見された黒曜石製石器において、どのような技術で石器が製作されていたのかを同定するために、筆者の一人である髙倉が「フラクチャー・ウィング分析」を実施しました。この分析手法は、日本の黒曜石製石器を対象とした研究のなかで確立されたもので、定量的指標にもとづいて客観的な技術の同定が可能となるものです。今回、ヨーロッパの石器資料を対象としてはじめてこの分析手法が適用されました。

 

用語解説

フラクチャー・ウィング: 黒曜石のような脆性材料の破面に観察されるV字状の模様のことです。材料科学の一分野である破壊力学での研究成果により、亀裂前線と弾性波の相互作用の連続で形成されることが明らかにされています。ウォルナー線と同様に、亀裂速度の有効な指標になります。石器の割り方の相違が亀裂速度の違いに反映されるとの実験結果に基づき、遺跡から発見された石器の製作技術を判定するのに有効な指標となることが明らかにされています。

 

研究成果

ニトラ・セレネツ遺跡から発見された金石併用時代前期の黒曜石製石器は、エネルギー分散型蛍光X線分析によって、ハンガリー北東部の産地に由来するものであることが明らかにされました。約250km離れた産地から遺跡にもたらされていたことになります。遺跡には石核や石刃の状態で持ち込まれていることがわかりました。近隣で獲得できる石材ではないことから、交易を介した入手が推定されます。

 

フラクチャー・ウィング分析によって、遺跡から発見された定形的な小形石刃には、押圧剥離法によって作り出されたものが含まれていることが判明しました。ヨーロッパでは、中石器時代末から新石器時代初頭にかけての時期以降に、本格的に押圧剥離法を用いた石刃・細石刃製作が普及すると推定されてきましたが、本研究ではじめて定量的・客観的な基準により押圧剥離法の石刃・細石刃製作への適用が把握されました。

 

また、実験試料との対比から、押圧剥離法によって小形石刃が剥離される途上で、平滑な面を作り出すために、硬い石を利用した砥石によって石核の複数の面が磨かれていたことが推定できました。このような行為の痕跡が把握されることは大変珍しく、黒曜石を利用した石器作りの比較研究を進めていくうえで、類例の確認が期待されます。

 

今後への期待

本研究では、日本で推進され、深化してきた黒曜石製石器の分析手法を、ヨーロッパの資料にはじめて適用し、その有効性を検証することができました。今後、さらに異なる時期や地域の資料にも応用していくことで、新たな視角から、上部旧石器時代から中石器時代、新石器時代、金石併用時代にかけてのヨーロッパでの石器製作技術の変容を系統的に解明できるのではないかと期待されます。こうした研究の推進は、ユーラシアの東西にまたがる広域の比較考古学的研究につながっていくものと考えられます。

 

謝辞

本研究にあたっては、文部科学省科学研究費助成事業の学術変革領域研究(A)(24H02196)の助成を受けました。

 

論文名 Ground obsidian artefacts from an Early Eneolithic site in Nitra-Selenec (Slovakia)

(スロバキアにおける金石併用時代前期の遺跡ニトラ・セレネツの磨製黒曜石石器)

著者名 Adrián Nemegrut1、Michal Cheben1、Ludmila Kaňáková Hladíková2、Jan Petřík3、

髙倉 純4、Antonín Přichystal3、Lubomír Prokeš5、Monika Gabulová1

(1: スロバキア科学アカデミー考古学研究所、2: マサリク大学考古学・博物館学科、

3: マサリク大学地球科学科、4: 札幌国際大学人文学部、5: マサリク大学物理化学・職業教育学科)

雑誌名 Journal of Archaeological Science: Reports(考古学の専門誌)

DOI 10.1016/j.jasrep.2026.105717

公表日 2026年4月11日

 

 

参考図

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202604167562-O6-xmaVEwrt

 

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202604167562-O7-QRcgz4qC