2014年に若手ダンサーの登竜門、ローザンヌ国際バレエコンクールで1位をとった二山治雄が今、再びバレエファンの話題を集めている。名門パリ・オペラ座バレエ団の契約団員などを経て昨年4月、東京バレエ団にソリストとして入団。「ドン・キホーテ」と「くるみ割り人形」で主役を踊り、今年8月の公演「海賊」では、豪快な舞いで舞台を盛り上げるアリ役に選ばれた。コンクールでの快挙から10年余り、「やっと自分の居場所を見つけた」と前を見据える二山に新天地に掛ける思いを聞いた。(共同通信=須賀綾子)
【にやま・はるお】1996年生まれ、長野県松本市出身。2014年のローザンヌ国際バレエコンクール1位、ユース・アメリカ・グランプリ(15~19歳男子部門)で1位。米国留学を経て、17~20年パリ・オペラ座バレエ団契約団員。20年に帰国後はフリーランスで活動し、25年4月東京バレエ団に入団した。重力から解き放たれたような高い跳躍やエレガントな踊りは「妖精のよう」とも称される。
(1)皆が一つになっていく
▼記者 入団1年目で「ドン・キホーテ」の青年バジル、「くるみ割り人形」の王子と、2演目で主役を踊りました。バレエ団の期待の大きさを感じます。
●二山 (昨年11月の)主役デビューの時は、皆を引っ張っていかなければいけないプレッシャーや自分が真ん中に立っていいのかとか考えてしまって…。でも準備段階から(プリンシパルの)柄本弾さんをはじめ多くの方に支えられ、踊っているさなかも皆が助けてくれた。励まし合ったり、支え合ったりして、舞台に向けて皆が一つになっていくさまが見える。すごい温かいバレエ団です。主要な役だけでなく「ザ・カブキ」など東京バレエ団ならではの作品も踊れて、とても濃い一年でした。
僕はパリ・オペラ座では契約団員で更衣室に自分のロッカーもなかったし、帰国後もフリーランスで活動していたので、今、やっと居場所を見つけられて(東京バレエ団の団員を)「職場の仲間」と言えるのがうれしい。先日、芸術監督の佐野志織先生から「なじみすぎているくらいなじんでいる」と言われました。
▼記者 8月には古典の大作「海賊」で人気キャラクター、アリ役に抜てきされました。どう臨む?
●二山 海賊を最初から最後まで全幕を通して踊るのは初めて。率直にすごいうれしい。アリは海賊の首領コンラッドに仕える“ザ・男”といった役で、金魚のふんみたいにコンラッドにくっついているけど、踊りになると本性をさらけ出す。僕は中性的なイメージが強いので、お客さまに違う一面を見せられたら。熱く踊りたいです。
(2)苦しいことも多かったパリ・オペラ座の日々
▼記者 ローザンヌ優勝後、米国に留学、ワシントン・バレエを経てパリ・オペラ座に挑みました。どんな展望を抱いていましたか?
●二山 ローザンヌで賞をもらえるとは思っていなかった。普通の高校生だったんです。プロになる心構えもなく、周りに勧められるがままコンクールを受けて留学して…。オペラ座への挑戦も「入団オーディションがあるから受けてみたら」と言われたのがきっかけでした。
▼記者 契約団員時代はどんな日々でしたか。
●二山 1年契約なので、正団員を目指して毎年入団試験を受けました。僕は(エトワールの)マチアス・エイマンが好きで、最初の頃は一緒にレッスンやリハーサルができることに感動したけれど、苦しいことも多かった。とにかくオペラ座になじもう、周りと合わせなきゃと必死でした。今思えば、もっと自分らしさ、個性を出せば良かった。縮こまらず堂々としていれば良かったなと思います。
▼記者 得たものも多いのでは。
●二山 もちろん。オペラ座時代がなかったら今の自分はいません。オペラ座の先生に直接指導してもらい(バレエの礎を築いた)フランスのスタイルを身に付けることができたし、見るもの聞くもの全てが勉強になりました。舞台で踊る機会がたくさんあったわけではないけれど、その場にいるだけで価値があると思える時間でした。
(3)人生初のアルバイト
▼記者 帰国後、バレエ以外の仕事も模索したそうですね。
●二山 コロナ禍でオペラ座の公演自体がなくなり、契約も解除に。実家に戻ってさてどうしようと考えた時、一回バレエから離れたいなと思って、人生で初めてアルバイトをしました。
▼記者 どんなバイトを?
●二山 いろいろな公演に誘われていたのでトレーニングは続けつつ、1年半ほど、スーパーで午前3時から9時までの品出しやレジ係をしたり、介護施設で事務仕事をしたりしました。人の役に立てていると実感できたし、施設では、コロナ禍で人を呼ぶ催しができなくて、クリスマス会で入所者の方たちの前で踊ったことも。涙したり、すごい笑顔になってくれたりした人がたくさんいて、自分の踊りで人を喜ばせることができるんだと感じられて、バレエに対する考えが変わるきっかけにもなりました。
自分を見つめ直す時間ができて、それまで流れのように取り組んでいたバレエを、初めて自分の意志で仕事だと思えるようになった。バレエへの姿勢も変わりました。仕事は責任を伴う。今までは自分のために踊っていたけれど、見てくれる人のため、お客さまのために踊ろうと思うようになりました。
▼記者 東京バレエ団に入団を決めた経緯は?
●二山 フリーで踊るのは今じゃなくてもできるので、どこかのバレエ団に入団したかった。そんな時、東京バレエ団の(プリンシパル)秋山瑛さんと共演する機会があり、団長の斎藤友佳理さんから話を聞いたり、公演を見に行ったりして、ここに身を預けたいと思った。演目が幅広く、世界的振り付け家が団のために振り付けた代表作があるのもかっこいいですよね。
▼記者 入団オーディションを受けたそうですね。
●二山 僕よりずっと若い子たちと一緒にオーディションを受けました。僕はもう要らないプライドは捨てようと思っていて、入団したらどんな役でもやろうと。その気持ちは今も変わりません。東京バレエ団で主役を踊り、周りのダンサーの大切さをすごく感じた。だからソリストの役に限らず群舞でも、なんでも踊りたいんです。
(4)コンプレックスがあるからこそ
▼記者 踊りへのこだわりは?
●二山 個性は出していきたい。もちろんアンサンブルなどははみ出してはいけないのだけど、自分らしさは絶対につぶしてはいけないと思っています。その個性とは何かと問われると自分でも分からないけれど、踊り方だったり、表現の仕方だったり、周りにすごく合わせる必要もないんじゃないかな。決めつけずにやっていきたい。
身長(167センチ)も高くはなく、ダンサーたちと並んだとき鏡を見て小さいなって思う。自分はコンプレックスがあるからこそ、他の人よりもできなきゃいけないと常に思っています。
▼記者 自身の経験を踏まえて、プロのバレエダンサーを目指す後輩たちにアドバイスするとしたら?
●二山 学校生活や家族と過ごす時間も、全ての経験がバレエの表現として出てくると思うので、バレエだけじゃなく、とにかく今の時間を思いっきり楽しんでいろいろな経験をしてほしい。バレエは小さい目標を積み重ねていくことが大事。無駄だと思っても、頑張ったことは必ず人生に反映される。その時にしかできないことをひたすら頑張ってほしい。
▼東京バレエ団の「海賊」は8月26~30日東京・新国立劇場。二山のアリ役出演は27日と29日。
詳細はhttps://thetokyoballet.com/performance/lecorsaire2026/
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