韓国では支持増、日本では限定的
正しい情報を伝えれば、男女格差への政策支持は高まるか? ―韓国では支持増、日本では限定的―
詳しくは早稲田大学ウェブサイトをご確認ください。
【表:https://kyodonewsprwire.jp/prwfile/release/M102172/202605138932/_prw_PT1fl_nkl9EQ69.png】
男女の賃金格差など、社会にある不平等の実態を正しく知れば、人々の考え方や政策への賛否は変わるでしょうか?これまで、誤った認識を正す情報の提供は有効と考えられてきましたが、その効果については十分に検証されてきませんでした。
早稲田大学 政治経済学術院の尾野嘉邦(おの よしくに)教授、成均館大学 政治・外交学部のYesola Kweon(やそら くぉん)准教授、梨花女子大学 政治・国際関係学部のMin Hee Go(みん ひ ご)教授、学習院大学 法学部の三輪洋文(みわ ひろふみ)教授による本研究は、日本と韓国の有権者を対象としたサーベイ実験により、男女の賃金格差などに関する誤った認識を正す情報を提示した場合に、人々の意識や政策支持がどのように変化するのかを比較しました。
その結果、韓国では男女格差に関する情報を受け取った人々の間で男女平等に関する政策への支持が高まった一方、日本では同様の情報を提示しても政策支持にそれほど大きな変化が見られず、情報の効果に国ごとの差があることが明らかとなりました。これらの結果は、正確な情報を提供するだけでは、人々の意識や行動は必ずしも変化するとは限らないことを示しています。
本研究は2026年4月25日に「Public Opinion Quarterly」に掲載されました。
論文名:Correcting Misperceptions Across Contexts: The Political Impact of Gender Inequality Information in Japan and South Korea
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202605138932-O2-tCdG7gO8】 (図1)男女の賃金格差の認識を正す情報が賃金格差への政策的介入への支持に与える効果 (本図は論文中のFigure 5をもとに、日本語表記に改めて作成したもの)
図1は、「男女の賃金格差について正しい情報を伝えたときに、格差を是正する政策への賛成がどの程度変わるか」を、日本と韓国で比較した結果を示しています。韓国では政策支持が有意に高まっている一方、日本では効果が小さく、国によって受け止め方や影響の大きさが異なることを示しています。
(1)これまでの研究で分かっていたこと
男女格差に対する人々の認識は、実態とずれていることが多いと指摘されてきました。特に、男女の賃金格差などについては、実態よりも小さく見積もられたり、大きな問題として受け止められなかったりすることが知られています。このため、誤った認識を正す情報を提供すれば、人々の態度や政策への支持は変化すると考えられてきました。
こうした考えに基づき、欧米を中心に、正確な情報提供が人々の態度や政策支持に与える影響について、調査研究が進められてきました。実際に、情報提供によって男女格差の是正に向けた支持が高まるという結果も報告されています。
しかし、その効果はすべての国や文脈において同様に現れるとは限らないこと、特に、男女格差がどの程度社会問題として認識されているかによって、情報の受け止め方が異なる可能性があることが指摘されてきました。
特に、日本や韓国を含む東アジア地域において、こうした情報の効果を比較した研究は限られていました。そのため、誤った認識を正す情報が、どのような条件で人々の態度や政策支持に影響を与えるのかは、十分に明らかにされてきませんでした。本研究は、こうした未解明の問題に注目しました。
(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと、そのために新しく開発した手法
本研究は、男女格差に関する正確な情報を伝えること(情報修正)が、人々の態度や政策支持にどのような影響を与えるのかを明らかにすることを目的としています。特に、その効果が国や政治的文脈によってどのように異なるのかを検証しました。
そのため、日本と韓国の有権者を対象に、それぞれ約3,500人を対象にサーベイ実験を実施しました。参加者に対し、男女の賃金格差などに関する実態データを提示し、事前に持っていた認識を修正したうえで、男女平等に関する政策への支持や意識の変化を測定しました。比較のため、情報を提示しないグループも設け、情報の効果を検証しました。
分析の結果、韓国では、格差の実態を示す情報修正によって男女平等に関する政策への支持が高まることが確認されました。一方、日本では同様の情報修正を行っても、態度や政策支持に大きな変化は見られませんでした。すなわち、誤った認識を修正する情報の効果は、国によって異なることが明らかとなりました。
さらに、この差は単なる情報量の違いの問題ではなく、政治や社会の中で論争になっているかどうかといった社会的な文脈の違いと関係している可能性が示唆されました。韓国では男女格差が社会問題として広く認識され、政治的にも争点化されているため、情報が政策支持の変化につながりやすいと考えられます。一方、日本では男女格差に対する問題認識が相対的に弱く、情報を提示しても態度変化が生じにくい可能性があります。加えて、日本ではもともと男女格差を過小評価している回答者が比較的少なく、このことが情報修正の効果を限定的にした一因とも考えられます。
本研究の特徴は、単に態度を国際比較するのではなく、同一の実験デザインを用いて日本と韓国の差を直接検証した点にあります。また、誤った認識を修正する情報の効果を因果的に特定した点に新規性があります。
これらの結果は、情報提供が常に人々の意識や行動を変えるとは限らず、その効果が社会的・政治的文脈に依存することを実証的に示したものであります。
(3)研究の波及効果や社会的影響
本研究は、男女格差に関する誤った認識を正す情報が、必ずしも人々の態度や政策支持の変化につながるわけではないことを示しました。特に、日本では情報提供による効果が限定的であった一方、韓国では政策支持の増加につながることが確認され、同じ情報であっても国によって受け止め方が異なることが明らかとなりました。
これらの結果は、男女格差の是正に向けた政策立案や広報のあり方に重要な示唆を与えます。単に数字や事実を示すだけでは、十分な理解や行動の変化につながらない可能性があり、社会の問題認識や関心の状況に応じた情報発信が必要である可能性を示しています。
また、本研究は、情報提供の効果が社会的・政治的文脈に依存することを実証的に示した点で、世論形成や政策支持の研究にも貢献します。今後は、どのような条件のもとで情報が人々の意識や行動に影響を及ぼすのかを明らかにすることで、より実効性の高い政策形成や広報戦略につながることが期待されます。
さらに、日本と韓国を比較した本研究の結果は、国際比較の観点からも意義があり、他国における男女格差への対応策などを検討する際の参考となることが期待されます。
(4)課題、今後の展望
本研究は、サーベイ実験を通じて情報提供の効果を検証しましたが、実際の社会では、ニュース報道、SNS、政治家の発言、職場や家庭での会話など、さまざまな要因が同時に影響します。そのため、本研究の結果がそのまま現実の世論の変化に当てはまるとは限らず、解釈には一定の注意が必要です。
また、本研究は日本と韓国を対象とした比較に基づいており、他の国や地域でも同様の結果が得られるのか、今後さらに検証する必要があります。男女格差に対する問題意識や社会的議論の状況が異なる場合、情報の効果も変わる可能性があります。
今後は、情報の提示方法や繰り返し提示の効果、メディアや政治的文脈との関係などを検証することで、どのような条件のもとで人々の意識や政策支持が変化するのかをより詳しく明らかにする必要があります。また、実際の選挙や政策議論の場面と結びつけた分析を進めることも重要です。
さらに、男女格差に関する情報がどのように共有され、社会的な議論につながるのかを明らかにすることで、より効果的な政策形成や広報のあり方に関する知見の蓄積が期待されます。
(5)研究者のコメント
本研究は、韓国の研究者らと学会や研究会などで議論を重ねる中で、男女格差に関する誤った認識を正せば、人々の意識や政策支持は変わるのかという問いから出発しました。特に韓国では、男女格差やジェンダー平等をめぐる議論が、近年の大統領選挙で反発も含めて政治的争点となり、若年層を中心に男女間で分極的な態度が見られます。こうした状況を日本と比較した場合、有権者の反応はどのように異なるのかという問題意識のもとで研究を進めました。
分析の結果、誤った認識を正す情報の効果は単純ではなく、日本と韓国でも異なることが明らかになりました。事実を伝えることは重要ですが、それだけでは十分ではありません。人々が問題をどのように認識し、どのような社会的文脈の中で受け止めているのかを踏まえた議論や情報発信が求められます。
日本と韓国は地理的に近く、言語の文法にも共通点がある一方、議院内閣制と大統領制、徴兵制の有無など、制度面では大きく異なります。今後も、こうした共通点と相違点に注目しながら、東アジアにおける比較研究をさらに進めていきたいと思っています。
(6)用語解説
※1 サーベイ実験
サーベイ実験とは、アンケート調査のようなサーベイに実験的手法を組み合わせたもので、回答者を無作為に異なる条件に割り振り、条件ごとの回答傾向の違いを観察します。それぞれの条件ごとに質問文の内容や指示文を入れ替えることで、そうした操作が回答にどのような因果的効果を及ぼしたのかを検証することができます。
(7)論文情報
雑誌名: Public Opinion Quarterly
論文名: Correcting Misperceptions Across Contexts: The Political Impact of Gender Inequality Information in Japan and South Korea
執筆者名(所属機関名):
Min Hee Go(梨花女子大学)
Yesola Kweon*(成均館大学)
三輪 洋文(学習院大学)
尾野 嘉邦(早稲田大学)
*筆頭著者
掲載日:2026年4月25日
掲載URL: https://academic.oup.com/poq/advance-article/doi/10.1093/poq/nfag030/8662487
DOI:https://doi.org/10.1093/poq/nfag030
(9)研究助成(外部資金による助成を受けた研究実施の場合)
科研費基盤研究A「政治的ジェンダーバイアスの包括的研究(20H00059)」(研究代表者 尾野嘉邦)ほか
正しい情報を伝えれば、男女格差への政策支持は高まるか?
早稲田大学
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