インディーゲーム『グノーシア』。1人でできる人狼ゲームという斬新なスタイルで、2019年にPlayStation Vitaで発売されると、ダウンロードソフトランキングで1位を獲得。口コミで高評価が広まり、ロングヒットとなった。ニンテンドースイッチなどにも移植され、2025年にはアニメ化し、さらに話題に。2026年3月にはiOS/Android版の配信も始まった。作ったのは名古屋の4人からなる開発集団「プチデポット」。ヒットの裏側を、プロデューサーの川勝徹さんに聞いた。(取材・文 共同通信=高坂真喜子)
【グノーシア】
舞台は1隻の宇宙船。乗組員たちの中に人間を襲う未知の敵『グノーシア』が紛れ込み、毎晩1人ずつ乗組員たちを襲う。プレーヤーは、乗組員となってグノーシアを見つけるか、グノーシアとして気付かれないように乗組員を襲う。
(1)人狼のハードル下げる
▼記者 『グノーシア』を作ることになったのは、初心者でも一人で楽しめる人狼ゲームを遊びたいというのが始まりということですね。(※人狼とは、味方になりすましたうそつきを会話で探し出すゲーム)
●川勝 人狼のゲームシステムって面白いけど、いきなり知らない人たちと一緒にやるというハードルの高さは下げたいと思っていました。僕らは本格的な“対CPU人狼”を遊びたいわけじゃなくて、カジュアルに人狼を遊べるように改良しようと。頭の良いキャラクターを作ることもできますが、初心者には厳しいですし、それを面白いと思うまでに時間がかかりそうですしね。集団の遊びの中で、合理的で最適な行動ばかりしていると予測されやすいですし、それよりそれぞれのキャラクターの性格や個性が反映された方が楽しいと思うんですよ。
▼記者 14人のキャラクター、一人一人に特性があります。
●川勝 デザイン担当の「ことり」さんが14人のキャラクターを描き、キャラの性格に合わせてパラメータを割り振っています。集団で何かをする時に、場を和ます人とか、賢い人とかいろんな人がいるといいよね、と。性格がとがったキャラクターの方が面白いんじゃないかと。
▼記者 プレー中に発生するイベントを追い、14人の登場キャラクターを深く知っていくことで、物語が進んでいきます。
●川勝 ずっと人狼ゲームばかりだと飽きてしまうので、シナリオを入れることで先が気になる展開にしてモチベーションを上げたり、クリア条件を設けることで得られるキャラクターの背景を知ったりと、長く楽しめる工夫をしています。
(2)15分で人狼と人間ドラマを
▼記者 キャラクターは「乗員」や『グノーシア』など、割り当てられた役割に沿って、発言、行動しますが、性格や能力、好感度、役割、他者への信頼度などの内部パラメータがあり、毎回違った議論が展開されて、何度も楽しめます。
●川勝 仕事で会議や打ち合わせはよくありますが、あまり楽しいものではないと思っていて。なぜみんなが意見を言わないのかなとか、何を思っているのかなとか、どこに向かって進んでいるのか整理しようとか、そんなことを考えながらだと前向きな議論になりそうですし、魅力的な会話劇になるんじゃないかと。
▼記者 ゲームの中の会議では、それぞれのキャラクターが、まるで人間のように振る舞います。
●川勝 人間が相手のことをどう思っているかを、例えば信頼しているか疑っているか、嫌いか好きかの二つの軸で分けた時に、嫌いで疑っているというのは、完全にグノーシアだと思っているし、人間的にも嫌いだから最悪ですよね。
「あの人は私が大好きだし、絶対人間だと思っていて信頼している」というのが一番いいわけです。
でも、ドラマで一番盛り上がるのは、「絶対人狼と思っているんだけど、でも好き」という状況だったり、逆に「あいつすごく嫌いなんだけど、でも人間なんだよね」という状況かなと。
だから、この『グノーシア』でも信頼しているか、好きか嫌いかといったパラメータがその都度、議論を通じて変動しています。今回はこのキャラとこのキャラがお互いに好き、お互いに嫌い、という深い人間関係が議論のたびに発生し、ドラマが生まれる。約15分という短い時間で人狼と人間ドラマが味わえるというような感覚ですね。
(3)現実の仕事と同じ「巻き込まれ型」に
▼記者 ゲーム上で誰がグノーシアなのかをみんなで投票して選ぶ時に、理屈関係なく嫌いなキャラに投票するキャラもいます。
●川勝 『グノーシア』のキャラたちにしてみれば、あの世界の中で別に人狼ゲームだと認識して議論しているわけではないからです。たまたま宇宙船にグノーシアという敵がいるから、コールドスリープさせたいだけなんです。
そうなると、これまで生きてきた環境から好き嫌いで選ぶだろうし、そういう人間臭さを生かすことで、プレーヤーとしては「このキャラは感情優先かな」「変なことするな」とか、「いや、しょうがない、キャラたちは別に人狼ゲームやってるんじゃないんだから」と。それが会議や人間関係の縮図、いわゆる社会の縮図じゃないかなと思っています。
▼記者 テストプレーもかなりしたのでしょうか。
●川勝 完全な設計書を作って、その上に合わせて作るという作り方ではなくて、粘土をこねるみたいに、作って壊してというのを続けてきました。テストプレーはメンバー4人でおおよそ6千回しましたね。画面の切り替えが遅いとか細かいところを修正して、この辺で強めのイベントが入らないとちょっと飽きるな、と感じたら必要なものを付け足したりして。実際にプレーしながら作っていったら当初の予定よりイベントがかなり増えました。
このゲームの特徴は、高いレベルにならない限り自分で議論をコントロールできないところにあります。だから極端なことを言うとボタンを連打しても議論が進むので、他のキャラたちが勝手に投票して、たまに自分が何もせずに勝つこともあるんですよね。プレーヤー巻き込まれ型のゲームといいますか。
現実でも、仕事でいきなり会議に入って訳も分からないまま進むこともあるかもしれない。そういうリアルな体験をゲームでも反映されているかな。よく分からないけど、グノーシアがいて、排除するのを頑張れと。普通のゲームではそういうのは説明不足で優しくないけど、現実はそうじゃない? 事件は突然起こる。
▼記者 ストーリーはどのように決めたのでしょうか?
●川勝 基本的にはシナリオライターの「しごと」くんが書いています。そこにデザイナーの「ことり」さんや私の意見も入れながら磨き上げてくれました。
なかなか今の時代、SFのゲームってないですよね。SFが面白いと知らない人にもそういう魅力も感じてもらえたらうれしいですね。
(4)ガラケー向けゲームで何でも挑戦
▼記者 川勝さんは、小さい頃からゲームを作りたいと思っていたそうですね。
●川勝 喫茶店に「インベーダーゲーム」があって、初めて幼稚園の時に遊んでいて、テレビは見るものだと思っていたのに、映っているものを動かせるという感動を味わいました。そこから夢中でした。それからゲームを作ってみたいと思いましたが、当時は作り方が分からなかった。ファミリーコンピューターが発売される前で、そもそもゲーム機もないので。
大学生の時に、ゲームの会社に就職しようと思いましたが、そもそも開発の求人が一般の大学にはあまりありませんでした。だから、工作機械メーカーで営業の仕事に就いて、1年間仕事して、お金をためて退職したんです。
その時ちょうどゲームを作る専門学校が増えてきたタイミングだったので、入学してゼロから2年間、プログラムの勉強を一生懸命しました。プログラムはやったことがなかったので、ほぼ休みなしでやりました。絵も音楽も、1人で全部作れという学校でした。朝から夜まで学校が開いている時は、ずっと自習して、仲間と切磋琢磨しながらやりました。
▼記者 卒業後は。
●川勝 2年間プログラムを勉強して、地元のゲーム会社「T&E SOFT」に入りました。ですが、なんと入社して半年でつぶれてしまって。その会社の同期がプチデポットのサウンド担当の「Qflavor」です。
そこで、転職しました。転職先が、携帯電話(ガラケー)向けのゲームを作る事業を立ち上げるというタイミングだったので、そこでゲームを作り始めました。最初は手探りで50キロバイトとか500キロバイトの少ない容量のゲームを作っていました。当時の携帯のアプリは、グラフィックの色数も少なく、かなり工夫しないとうまく動きません。当時、プレイステーションが盛り上がっている時に、僕らはゲームボーイみたいな、画面も小さいちょっと違うスペックのゲームを作っているという意識でした。
開発費や人件費も低く、1カ月か2カ月で作らないといけなくて、オリジナルゲームもたくさん作らせてもらいましたね。当時は出すたびに何でも売れていたので、リスクもあまりなかったかもしれません。何でも挑戦させてもらったのがよい経験になりました。この会社にアルバイトに来たのが、プチデポットの「しごと」くんです。金髪に赤い服に雪駄という姿で、個性的でしたね(笑)。その後、プチデポットを結成するときに「しごと」くんが連れてきたのが、友達の「ことり」さんです。
(5)ライバルはクリエーター全員
▼記者 なぜ独立したのでしょうか。
●川勝 スマートフォンが出てきた時に、一般の人でも自分で作ったゲームをストアで出せる時代になってきました。企業としては出せば売れないといけないのですが、趣味で作っている人が参入してくる。コスト関係なく、趣味で何百時間も作っている人たちと戦わないといけない。しかもすごい安く出してくる。これはちょっとまずいなと。
僕も10年ほどゲーム会社でアプリや家庭用ゲームを作りましたが、参入障壁が一気に下がってしまったから、ライバルが一般のクリエーター全員になってしまった。勝負するなら、本当に面白いものを考えざるを得ない。勝負したいと思って、それぞれフリーランスで活動していたのですが、そこに私も合流してひとつのチームになったという感じです。
ゲームを作る時、最初はお金がないので、生活費を稼ぐためにいろんな仕事を並行してやりました。今は専門学校でゲームデザインを教えて、大学でも講師と研究員をしています。仕事するなら、領域が重なった方がいい。ゲームを作る時に、プレーヤーが求めていることを知るという意味では、専門学校にはゲームを作りたい学生がいっぱいいるので、今の18~21歳の子たちが何が好きで、何にはまっているのかを体感できます。僕らも教えたいこともあるし、教わりたいこともある。
兼業しないと、『グノーシア』の4年間の開発費はまかなえなかったですね。
▼記者 プチデポットの他のメンバーも兼業ですか。
●川勝 今はほぼ専属でやっています。サウンド担当の「Qflavor」は、いくつかいろんな仕事を好きでやっています。一方でプログラマーとデザイナーはほぼずっと作り続けないといけない。特にこのゲームは、作って直して作って壊しての繰り返しだから、途中の仕事が入ると全部頭から抜けてしまう。集中してずっとやるから、できるだけ集中力が欠けないように、デザイナーとプログラマーだけは、集中してずっとやれるような体制を整えました。
▼記者 プチデポットの次回作については。
●川勝 まだ考えていないです。みんな、遊びたいゲームはあるけど、まだないという状況になれば作ろうかなと思っています。何かに追われてとか、何かをしないといけないといった状況ではなく、もっとフラットな気持ちでものづくりに関わっていけたらと思っています。
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