チケットの売れ行き好調な今年のフジロックフェスティバルで、初日のホワイトステージに登場する注目アーティストがイギリス出身のアーロ・パークスだ。2021年のデビューアルバムが批評家から絶賛された気鋭のシンガー・ソングライターは、4月に3作目となるアルバム『Ambiguous Desire』をリリースしたばかり。空気を含むような淡い歌声はそのままに、夜更けのダンスフロアの気配を帯びたサウンドへと変化した。5月に来日したアーロに東京都内でインタビューをすると「リリース後に本格的なショーで演奏するのは初めて。とてもワクワクしています」とはにかんだような笑顔を見せた。(取材・文 共同通信=森原龍介)
(1)“家にいるようだった”フジロック
Q 2022年以来のフジロックです。前回はどんな経験をされましたか?
A 自分の家から何千マイルも離れているのに、まるで自分の家にいるような居心地の良さがありました。私の『Collapsed In Sunbeams』というアルバムをイメージしてか、何人かのファンが小さなひまわりの花を持ってきて、歌詞の一言一句を一緒に歌ってくれました。本当に温かく迎えてくれて、熱心に聴いてくれているのが伝わってきたんです。
Q フジロックというフェスの印象はいかがでしたか?
A 歴史と伝統があって多様で多彩なアーティストが集う。今まで出演してきた中でもお気に入りのフェスです。自然が好きなので、山々や森に囲まれてとても穏やかな気持ちになれますね。
Q そのフジロックにぴったりのアルバムが4月にリリースされた『Ambiguous Desire』です。どんなステージにしたいですか。
A 一つのコミュニティーにいるような温かい雰囲気を作り上げたいですね。山を背景にすると、アルバムの魅力が美しく引き立つと思います。
(2)ダンスフロアではなりたい自分になれる
Q 今回のアルバムは、アメリカ移住後に通うようになったクラブの音や光景に影響を受けたそうですね。歌詞からも夜のダンスフロアが立ち上がります。中心で踊る人もいれば、離れて眺める人もいるようです。
A ダンスフロアはみんなが飛び込んでエネルギッシュに踊るのも魅力だけど、少し離れた場所から見たり、違う角度から楽しむのも大切なこと。だってダンスフロアは、誰もがなりたい自分になれる場所だから。中心にいたい夜もあれば、DJの真ん前にいたい時もあるだろうし、新しい友達をつくりたい時もあれば、端っこにいたい時もあるでしょ。私もこれまで数え切れないほどの夜を、そのたびに違う自分として過ごしてきたからね。
Q 曲中には「アレダのいとこは裏で吐いてる」(「BLUE DISCO」より)とか「マリアが脱いだヒールを手に持ったまま立っていた」(「GET GO」)とか、具体的な人物の名前が登場して、クラブの情景がより生き生きと目の前に浮かびます。かれらは実在するのか、フィクションなのか、どちらでしょう。
A 両方が交じっていますね。ほとんどのキャラクターは私の友人か、私がたまたま見かけて観察した人たちですが、いずれにしても私の心に残っている、現実や実際の経験に根ざしたキャラクターです。
(3)音に語らせる楽曲へ
Q デビュー作はネオソウル、R&B、あるいはベッドルーム・ポップスなどさまざまなジャンルの名前で語られました。淡い音と声はそのままに、今作ではよりダンスミュージック的なアプローチを取り入れています。もっとも、あなたは別にそうしたジャンル分けを意識してはいないと思いますが…。
A 確かにジャンルは意識していないですね。というのも、自分のレコードはある種のコラージュのようにあちこちから要素を引っ張ってきて作っているからです。ジャンルの境界を壊そうとしているのではなく、自分の場所に静かに存在している、という感じかな。
Q ダンスミュージックを取り入れたからか、リズムやメロディーを反復する曲の構造が多いことも印象に残りました。あなたは詩人でもあり、ポエトリーリーディング的なアプローチもこれまで積み重ねてきました。ダンスミュージックはどのように曲作りに影響したのでしょうか。
A 私はハウスミュージックやテクノにとても影響を受けていて、そういった音楽ではボーカルが曲の勢いを引っ張っている。声そのものが一つの楽器として機能している。曲を作る時にも、以前は歌詞が中心にあったけど、今はメロディーに導かれている。楽曲の物語性は大事にしているけど、音に物語らせる瞬間もあります。そのことで、音により広がりが生まれるんです。
Q 曲を聴いていると、ストーリーを描いているようにも、一瞬の場面を切り取ったようにも感じられるのが今回のアルバムの楽曲の魅力です。
A 確かに私の音楽は写真のようでありつつ、映画的な手法も取り入れています。私は一瞬を捉えたいし、自分の心の中に残る人たちの姿や会話を永遠にとどめるために楽曲を作っているのです。
(4)最大のインスピレーション源は
Q ダンスミュージックがあなたに与えたインスピレーションについてもう少し聞かせてください。イギリス出身のあなたはアメリカに移り住んでからクラブに通うようになったそうですね。
A そう。私はロサンゼルスに住んでいて、レコードもそこで作ったんだけど、パートナーがニューヨークに住んでいたから、ニューヨークで過ごす時間も多かったんです。ニューヨークには昔ながらのクラブが多いのに対して、ロサンゼルスは倉庫とかDIYで作られたようなスペースが多い。見つけるのは大変だけど、一度中に入ればとても豊かで多様だと気付かされます。
Q ダンスミュージック、特にハウスの魅力は何でしょうか。
A ソウルのボーカルを取り入れているところが魅力ですね。サンプリングされた音からエネルギーと歴史を感じます。(ハウスDJの)トッド・テリーとか(ニューヨークのクラブ)パラダイス・ガレージとか、豊かな歴史があって、踊っていて楽しい。大好きです。
Q 音楽の歴史について語っていただきましたが、その意味では今年のフジロックは特別なものになりそうです。アーロさんが大きな影響を受けたイギリスの「Massive Attack」が3日目のグリーンステージのヘッドライナーとして出演します。
A 彼らは私の最大のインスピレーション源。『Blue Lines』(1991年)と『Mezzanine』(1998年)は特にお気に入りのレコードだし、彼らがその90年代サウンドを現代のステージでどう再現するのか、アナログの質感をどう表現するのか、とても楽しみです。
Q 日本の音楽ファンにメッセージを。
A もしフジロックに行くかどうか迷っている人がいたら、ぜひ来てください。雰囲気は最高で素晴らしいバンドがたくさん出演します。間違いなく特別な体験になるはず。会場で会いましょう。
【フジロックフェスティバルは7月24、25、26日に新潟県湯沢町の苗場スキー場で開催】
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