未明の宇都宮市中心部。職務質問のきっかけは車の整備不良だった。
11月中旬。宇都宮中央署自動車警ら班の赤羽雄太(あかばねゆうた)巡査(24)は、パトカーで管内を巡回していた。オリオン通り近くで1台の軽乗用車に目をとめた。後部のナンバー灯が消えていた。
車内にいたのは2人の男女。声をかけると、運転席の男は身分証を提示した。しかし、後部座席の女は怒鳴り声を上げた。「任意だから必要ない!」
「何かあるな」。赤羽巡査はピンと来た。女はかたくなに質問に応じず、降車してその場を去ろうとした。「危ない物はないよね」「話を聞かせて」。一緒に歩いて、なだめ続けた。若手の指導役を担う県警地域課の大橋久祥(おおはしひさよし)指導員(44)がそばで見守った。
女の興奮した態度は次第に軟化。氏名などを話し始めた。女は風俗店従業員のようだ。応援の女性警察官が所持品を確認すると、バッグから男性名義のクレジットカードが出てきた。
女は任意同行された署で自白した。10日前に男性客から盗んだもので、窃盗容疑で逮捕された。男性はカードがなくなっていることに気付いておらず、使用の被害を未然に防いだ。
赤羽巡査は“職質”のスペシャリストを目指している。同行していた同課の山井宏一(やまいひろかず)職質技能指導官(42)は「積極性と情熱が良い。状況に応じて優しく説得し、相手を諦めさせた」と後進の成長を喜んだ。