地方の暮らしの諦めや我慢を何とかしたい-。育児や介護などに追われる女性の思いを「ワガママ」と表現し、課題解決の仕組みづくりに奔走する。
出発点は東京都内への就職だった。大学は小山市の親元から都内に通学したが、「地元にやりたい仕事がなかった」。都会と地方の間に横たわる「挑戦の不平等性」に疑問を抱く。本県出身者との交流を通じて構想を練り2017年、27歳の時に「帰れる地元をつくる」とkaettara(カエッタラ)を設立した。
■ワガママ可視化
県内自治体の移住イベントや地域おこし協力隊を支援する事業を展開。小山では女性活躍とデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進し21年、女性約30人が地域課題に取り組むNPO法人の設立を後押しした。「ワガママを可視化し、現場と行政・企業をつなぎ、デジタルで解決する。ワガママがかなう街なら、若者も女性も暮らしやすいはず」。そう確信した。
22年5月、官民連携事業を営む谷津孝啓(やつたかひろ)氏と組み、カエッタラの事業も引き継ぐ形でIRODORI(イロドリ)を創業した。事業のスキームによって参画メンバーは変わる。企業の新事業開発支援、行政の政策策定支援など26のプロジェクトが全国で進行する。
自身が手がけるのは、課題解決に挑むデジタル人材を育成する「ワガママLab(ラボ)」。コーディネーターとして住民と共に地域の「ワガママ」をリサーチ。解決のためのスマートフォンアプリを開発し、社会実装を目指す。第1弾となる茨城県鉾田市では、大学生や高校生とのプロジェクトが始動したばかりだ。
「チーフパブリックオフィサー(CPO)」という役職で広報や採用も担う。かつてウェブメディアを運営した経験などを生かしている。
■プレゼンに悩み
課題解決、DXを業務に掲げる企業は近年増えているが、交渉相手がすぐに理解してくれるわけではない。「新しいことばかりを説明、提案する。こちらは会議室のマイノリティー側。形がないものをどう信じてもらうか」と悩みは尽きない。
起業への挑戦は「怖いものだらけ」とも明かす。「やり遂げた先にどんな気付きがあるか。そこにつなぎ留められている」。ワガママラボを全国展開する目標と、前向きな好奇心に支えられている。
経歴 小山市出身。宇都宮女子高、早稲田大教育学部卒。都内のマーケティング会社などを経て、2017年11月にkaettara設立。22年に共同創業したIRODORIの執行役員チーフパブリックオフィサーを務める。都内在住。
企業メモ IRODORI 2022年5月設立。資本金100万円。23年4月期の売上高見込みは6000万円。社長は共同創業者の谷津孝啓氏。従業員はおらず、事業ごとに外部メンバー11人が参画する。東京都文京区関口1の32の10。