増田直記さん

 サンゴにヤドカリ、ナマコ…。大小さまざまな水槽に多種多様な水生生物が生息する。社内には約25の水槽が点在し、まるで実験室のようだ。社名の「イノカ」は「イノベートアクアリウム」が由来で、環境コンサルティングなどを手がける。

 設立は2019年。独自のノウハウと人工知能(AI)技術を組み合わせ、水槽内で自然に近い海洋生態系を再現する「環境移送技術」を提案する。40年までに90%以上が死滅するとされるサンゴを主に飼育し、環境教育に活用。「子どもたちに生き物に触れてもらい、自然保護の問題を自分事にしてほしい」と語る。

 「チーフアクアリウムオフィサー(CAO)」を名乗り、最高責任者として水槽の提案、設計、維持、管理などを担う。水槽ごとに水流や照明などが変わり「自分の職人的なデータや技術がベース。誰でも使えるようにしたい」。

■趣味が仕事に

 幼少時代から生き物に興味を持ち、独学でサンゴを育てる技術を構築した。今や自宅に縦60センチ、横150センチ、高さ75センチの大型水槽を設置するほどだ。

 以前、宇都宮市内の会社を休職中、東京大大学院でAI技術を学んでいた高倉葉太(たかくらようた)氏と知り合う。共通の趣味の水槽を通じて交流するうち、イノカの創業メンバーとして誘われた。

 高倉氏が代表となり、シェアオフィスから出発した。最初の給料は月5万円。水槽設置の営業で電話をかけまくった経験もある。「キラキラしたスタートアップ(新興企業)ではない。最初は運営資金を気にしていた」

 趣味がなりわいとなり、やりがいは大きいが「予算と時間に限りがある」ともどかしさも感じる。それでも「少ない予算で生産性を上げる工夫のしがいはある」と前向きに捉えている。

■新商品を治験

 企業と組んだ研究開発も柱の一つ。鉄鋼や飲料品などメーカーの新商品がサンゴにどんな影響を与えるか治験を行う。「自然保護は経済のサイクルに組み込まれていない。自然を守るほど利益が出れば新しいビジネスになる」と期待した。

 この1年間で経営は安定。2月末には水槽の技術や知見を発掘するアワードを初開催し、約60人が参加した。目指すは、人と自然が共生する世界だ。

 今後は古里の大学や企業との関わりを強めたいという。「海なし県に日本一大きいサンゴ礁水槽があっていい」と目を輝かせた。

 経歴  宇都宮市出身。宇都宮工業高卒。同市内の大手メーカー事業所に10年間勤務し、精密部品の鋳型製作に従事した。退職後、イノカ入社。同市内から新幹線通勤するが、週1回は自宅の“栃木支部”で作業する。

 企業メモ  イノカ 2019年4月設立。資本金1150万円。売上高1億円(23年2月期)。従業員約20人(アルバイト含む)。東京都港区虎ノ門3の7の10。