宇都宮市の古賀志山で昨年から今年にかけて、滑落や転落などの山岳遭難が相次いでいる。昨年は過去5年で最多に並ぶ11件、今年は2月末までに既に4件が発生。標高583メートルの低山だが、遭難者計15人のうち、半数以上の8人が登山歴10年以上だった。気楽に訪れた経験者が油断して事故に遭うケースが目立つという。NPO法人「古賀志山を守ろう会」の案内で2月、事故現場を歩き、原因を探った。
古賀志山南側の山麓の緩やかな登山道を歩いて行くと、荒沢滝に着いた。高さ約15メートルの岸壁をわずかな水が流れ落ちる。
宇都宮中央署によると、荒沢滝では1月下旬、茨城県笠間市、60代女性が滑落して死亡した。守ろう会理事長の池田正夫(いけだまさお)さん(85)は滝の上を指した。「滝のさらに上の斜面で落ち葉に足を滑らせたようだ」
事故現場は登山道から外れた場所だった。落ち葉が積もる上に、踏み固められておらず滑りやすい。女性は登山歴20年のベテランだったという。「なぜあんなところを歩いていたのか」。池田さんは首をかしげた。
同署や同会によると、古賀志山の特徴は登山道の多様さにある。経験者が地図に載ってない道を登ろうとして事故に遭ったり、迷ったりする例が目立つという。
次に向かったのは、森林公園の北西に位置する中尾根南側の中腹の岩場だ。中腹で高さ約20メートルの三角形の岩が行く手を遮る。登山素人の記者では登れそうにない。
この岩場では1月下旬、群馬県伊勢崎市、50代女性が手を滑らせ約20メートル滑落、胸や腰にけがをした。通常は登山用ロープをかけて登るが、女性は使っていなかった。女性にはクライミングの経験があったという。
「軽い気持ちで登ってはだめなんだ」。同会の平野明夫(ひらのあきお)さん(73)が表情を険しくした。
県山岳遭難防止対策協議会が作成し、県のホームページで公開されている「県 山のグレーディング」では昨年9月現在、技術的難易度は県内で最も高いレベルが求められる皇海山に次ぐ2番目に位置づけられている。一方、山岳遭難が相次ぐ中でも、市が認定する比較的緩やかな登山道ではほとんど事故は発生していないという。
同署山岳警備隊員で大谷町駐在所員の渡辺信(わたなべまこと)巡査部長(34)は初心者はもちろん、経験者に対しても「低山だと甘く見ないでほしい」と呼びかける。「基本的な装備を整えるほか、地図を携帯したり単独での登山を避けたりして、登山道を外れないように注意してほしい」と話している。