中村隆洋さん

 目指すのは、農作物の収穫時期や手入れのタイミングなどを提案する「農業の天気予報」だ。

 特殊なフィルターを備えたカメラとドローンで、植物の葉が反射する光の波長を上空約100メートルから観測・分析する。データを集積するため、東南アジアでの実証を繰り返している。

■小型衛星を計画

 「宇宙事業をやりたくて始めた」と語るように、将来的には50センチ立方サイズの超小型衛星を打ち上げ、農作物の生育状況を宇宙からモニタリングする計画だ。

 幼い頃から宇宙や科学雑誌に親しみ、就職した三菱電機エンジニアリングでは気象衛星「ひまわり」などの開発・設計に携わった。ただ、打ち上げが目的となり、衛星が活用されていないことに違和感を覚える。

 「宇宙からの衛星データで、暮らしを豊かに、便利にできるのではないか」。2006年に三菱を退社すると、検索エンジン事業で起業した。

■最後に悔いなく

 ITバブルに乗り、衛星事業の原資をつくろうとしたが失敗。17年、年齢などを考慮して「最後に悔いなく、やりたいことをやりたい」と、資本金100万円でポーラスター・スペースを設立した。

 三菱OBから紹介された北海道大の教授らと協力し、現在の事業モデルを考案するも、技術分野を担っていた教授陣が考え方の違いから脱退する。資金ショートも迫る中、たった1人、決死の思いで世界中の大学研究室にメールを送った。

 「ゼロからというよりマイナスから」の人脈探し。そうして出会ったのが、現在手を組む東京大やマレーシア・プトラ大の教授らだ。

 最近は、月の大半をインドネシアやマレーシアで過ごす。1農園50万ヘクタールにもおよぶ広大なアブラヤシ(オイルパーム)農園の上空にドローンを飛ばし、大きな損害を生む樹木病のデータを収集している。

 病気を早期発見できれば、過度な農地開拓を防ぎ、労働環境の改善にもつながるとして、昨年には家庭用品大手・花王と業務提携を結んだ。注目度は徐々に高まり、出資する企業が増加。「病気で苦しんでいるが解決策がない」という世界中の大規模農園からも、問い合わせが相次ぐ。

 資金次第では今年中にも衛星打ち上げに向け、準備に着手する。「2050年の食糧危機にも対応できる技術に育ったらいい」。故郷・黒磯の星空に抱いた宇宙への憧れは、地球の未来へとつながっている。

 経歴  那須塩原市出身。大田原高、防衛大航空宇宙工学科卒、青山学院大大学院理工学研究科博士前期課程修了。1999年、三菱電機エンジニアリング入社。2006年に退社し、IT企業の起業を経て、17年4月にポーラスター・スペース設立。都内在住。

 企業メモ  ポーラスター・スペース 2017年4月設立。資本金4億5350万円。売上高1200万円(22年3月期)。従業員数10人。東京都千代田区大手町2の7の1。