小島裕久さん

 踊るように、流れるような貿易実務を-。社名の「トレードワルツ」にはそんな意味が込められている。

 荷主、銀行、保険、船会社、物流企業など多くの産業が関わる貿易実務は、紙書類やPDF、郵送に伴うアナログな手続きがいまだに残る。そういった課題を解決しようと、データ改ざんを防ぐ特徴を持つ「ブロックチェーン」技術を活用し、書類を電子化・連携できるプラットフォームを提供している。

 前職のNTTデータ時代、新ビジネス創出に携わり、ブロックチェーンに着目。2017年8月、貿易実務を担う関係会社と13社でコンソーシアムを発足させ、課題抽出や実証実験を手がけた。20年4月、ジョイントベンチャー形式でトレードワルツを設立する際、社長に就任。NTTデータに在籍していたが、「新しいチャレンジをしたい」と不退転の覚悟で退職した。

■手続き時間を短縮

 会社の本格稼働は新型コロナ禍のさなか。従業員は出社できず、営業先にも直接会えない。「厳しい船出だった」と振り返る。

 一方で出社を余儀なくされている貿易実務の現場からは、作業進捗(しんちょく)の可視化や共有を機能として求められた。「突き詰めると足りていない部分があった」と苦労しながら、1年かけてコミュニケーション支援機能を追加で開発。22年4月、現行のプラットフォーム提供にこぎ着けた。

 紙がベースの日本の貿易実務は世界でも遅れている。プラットフォームの活用で手続き時間の短縮、コスト削減が可能となり「本来業務に人的リソースを投入できる」と利点を説く。

 本社は東京・霞が関のシェアオフィス。出資企業からの出向、プロパー、副業兼業など雇用形態は多彩だ。居住地も首都圏だけでなく東北や西日本に及ぶ。出向者のノウハウをプロパーが吸収し「自立した組織に成長させる」ことに心を砕く。

■社会の公器育てる

 コンソーシアムは今や180社にまで増えた。プラットフォームの利用は3月時点で41社。「徹底的に売ることに専念したい」と強調し、1年後の目標に取引倍増を掲げる。

 今後も貿易実務者の課題を解決できるサービスを提供し、「社会の公器」として育てる考え。アジアや世界につなぐハブ役としてプレゼンスを高め、3年かけて国内貿易のディファクトスタンダード(事実上の標準)を目指す。

 経歴  真岡市出身。真岡高、明治大政治経済学部卒。1988年に日本電信電話(現NTT)入社。分社したNTTデータで金融機関向けのシステム開発に従事した。2017年8月から貿易コンソーシアムの責任者。20年4月からトレードワルツ社長。同年6月にNTTデータを退職した。都内在住。

 企業メモ  トレードワルツ 2020年4月設立。資本金1億円。大手商社や銀行、保険、物流企業など15社が出資する。売上高は非公表。従業員55人。東京都千代田区霞が関3の2の5霞が関ビルディング36階。