常川朋之さん

 スタートアップ(新興企業)や既存企業の新規事業開発に関し、対話を通して課題を抽出し助言するメンタリング事業を展開する。相談件数は1日最大10件ほど。2020年度以降、1800件超の相談を受けた。

 業資金が乏しい起業初期の相談者からは報酬をもらわず、「うまくいったらラーメンをおごって」と背中を押す。自身の事業の醍醐味(だいごみ)は「相談者が社会における自分の価値を見いだしていく姿」と言い切る。

■「入り口をつかむ」

 01年、小山商工会議所に就職し、起業支援や総務に従事した。「栃木のいいモノを広めたい」との思いで15年、伝統工芸品の販売事業で独立したが、「売れない現実」に直面した。

 県内でアルバイトやカフェの手伝いをして過ごす中、かつて参加した事業コンテストの審査員からの誘いが転機となる。16年、スタートアップを支援する都内アクセラレーター企業と業務委託契約を結び、「学び直し」と称して東京や東北6県、愛知など、全国各地の起業家発掘に奔走した。

 数百社のスタートアップと出会い、経営が不安定な起業後間もない時期をサポートする重要性を実感した。経験豊富なメンター(指導者)という「鏡」を持たず、独りよがりに陥っていく起業家たち。その姿が、伝統工芸品事業に失敗した過去の自分と重なった。

 「同じ思いをしてほしくない」と再び起業を決意し19年、ビジネス支援の道を歩み出した。社名は「入り口(エンター)をつかむ(テイン)という意味で、事業安定の入り口さえつかめればとの願いを込めた」。

■全国各地で講演

 相談者の事業は食品から宇宙分野まで多岐にわたるが、通底する課題は「まず1人のユーザーを見つけること」。過去に支援した企業の紹介で、食品大手の新規事業開発を手がけた際は、担当部署のメンターとしてアイデア出しから実装までを2年間伴走支援した。

 現在は宇都宮市の起業家育成・支援組織「宇都宮ベンチャーズ」の運営を受託し、相談体制やオフィス環境の整備を進めるほか、全国各地で講演やセミナー活動に取り組む。スタートアップを支援する一般社団法人の年度内設立も目指す。

 こうした活動の傍ら、自身の趣味であるコーヒーの販売事業も手がける。「コーヒーは人を癒やし、力を与えることができる」。ほっとする1杯で起業家に寄り添いながら、自身の心を震わすエンターテインメントにも情熱を注いでいる。

 経歴  宇都宮市出身。宇都宮北高、白鴎大経営学部卒。2001年小山商工会議所に就職。15年に起業するも失敗し、16年に都内アクセラレーター企業の業務を受託し、全国の起業家を支援した。19年にエンターテイン設立。宇都宮市在住。

 企業メモ  エンターテイン 2019年4月設立。資本金100万円。売上高は非公表。従業員3人と、外部パートナー5人で構成。東京都千代田区大手町1の5の1。