「中国で自動運転の無人タクシーの運行が始まったと聞いた。乗り心地や安全性が知りたい」。西日本新聞「あなたの特派員」にそんな声が寄せられた。日本をしのぐ自動車大国となった中国。北京市内で3月から実証実験が始まった無人タクシーに乗ってみると、思い描いてきた近未来の光景が眼前に広がっていた。
高層ビルや商業施設が立ち並ぶ北京市の経済技術開発区。昨夏に中国初の無人運転商業化試験がスタートした地域だ。福岡市博多区の約2倍の中心エリア(60平方キロ)で、無人の宅配車や移動販売車、自動運転バスが一般車に交じって頻繁に行き来していた。
トヨタの出資企業も
無人タクシーは中国検索大手の「百度(バイドゥ)」と、自動運転技術の開発を手がける中国のスタートアップ企業「小馬智行(ポニー・エーアイ)」の2社が試験運行中。ポニー社は米国のシリコンバレーにも拠点を構え、トヨタ自動車から約4億ドル(約560億円)の出資を受けている。
スマートフォンの専用アプリでポニー社のタクシーを呼ぶと、約2分でトヨタの高級車ブランド「レクサス」の白いハイブリッド車(HV)が静かに近づいてきた。ボンネットに「無人化測試」と書かれ、屋根や側面に計15個のセンサーやカメラが付いている。
無人の車内に乗り込んでシートベルトを締め、座席前のモニターのスタートボタンを押すと、目的地へ走り出した。姿なき人工知能(AI)が運転手だ。
有人しのぐ乗り心地
モニターには前後左右を行き交う車両や通行人の姿をコンピューターグラフィックスで表示。路上にごみが落ちていると減速して回避し、急に割り込んできた車にはクラクションを鳴らして注意を促した。交差点にさしかかるとハンドルだけがクルクルと回る。レーダーやセンサーで交通情報を把握しているため急な発進や減速が少なく、北京を疾駆するタクシーよりも乗り心地がいい。
システムエラーによる事故はゼロで、万一の時は遠隔指令でサポートする。同社の担当者は「人為的ミスがないので安全にご乗車いただけます」と胸を張る。
同社は10台の無人タクシーを北京で運行中。現在、運賃は無料だが、年内にも当局から有料サービスの認可を得る計画だ。将来的に千台を走らせ、北京の一般タクシーと同等の運賃で採算が取れるという。
トヨタ自動車と連携し、各種センサーを搭載した次世代車両も開発中。日本市場に進出する計画はないというが、中国で技術を磨いた無人タクシーが日本の公道を走る日を想像してみた。(北京=西日本新聞)