5月。チェックインの30分前に訪れた男性客が「車で待つのか」「こんな所に泊まれない」「どう責任を取るのか」などと約1時間、従業員に詰め寄った。

 「接客業に向いていない」「こんな旅館なくなった方がいい」などと言われた田中佑治(たなかゆうじ)専務(31)は土下座し、男性客はキャンセル料を支払わずに帰った。こうした経験から、田中専務は改正法を歓迎する。

 客側からも前向きな声が聞かれた。同市の温泉街に夫婦で宿泊した茨城県つくば市、教員染谷智幸(そめやともゆき)さん(66)は「迷惑客に対処できるのは、他の客にとっても施設にとってもいいことだ」と期待した。

 一方、現場では運用面に不安もよぎる。酒に酔った迷惑客にどう帰ってもらうか、危害を加えられないか-。宿泊拒否した客のキャンセル料の徴収も大きな課題だ。田中専務は「激高する相手が納得するか」と懸念を口にした。「各施設で事案や対応を共有し、効果的な運用方法を検討していきたい。拒否権が独り歩きし、差が生まれないよう対応したい」と話した。

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