ブドウ農家の執念が“不審な男”を観念させた。

 シャインマスカットが鈴なりに実った昨年9月上旬の早朝。栃木市岩舟町静、ブドウ農家野口夏希(のぐちなつき)さん(35)は日課の巡回中、近所のブドウ畑の入り口で不審な県外ナンバーの軽トラックを見つけた。

 様子をうかがうと、畑から70代くらいの男が出てきた。怪しい。男は車に乗り込んだ。野口さんがドアと運転席の間から名前などを確認しようとした瞬間、男が車を発進させた。とっさに運転席の下部に足をかけ、上方の手すりにしがみついた。

 「戻ってください」。呼びかけに応じない。農道で速度が上がる。男は体を押してきた。止るよう説得を続けた。無我夢中だった。

 車にしがみついたまま数百メートル進んだ時、散歩中の女性が目に入り叫んだ。「警察に通報してください」。男は観念してアクセルを緩めた。「ごめんなさい」

 畑からは切られたシャインマスカット3房が見つかり、男は窃盗未遂容疑で摘発された。同12月下旬、栃木署から感謝状を受け取った野口さんは「被害を食い止められてよかった」。同署は「不審者を見かけたらすぐ通報を」と呼びかけている。